ゴーン被告の新弁護人「カミソリの切れ味試したい」

〝無罪請負人〟の言い分

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カルロス・ゴーン被告(左)と記者会見する弘中弁護士

 「私も73歳になりましたけれど、まだカミソリの切れ味があるかどうか試してみたい」。日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)の新たな弁護人に就いた弘中惇一郎弁護士が3月4日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で会見した。冒頭、司会から「カミソリ弘中」「無罪請負人」として紹介された弘中氏は1時間半近く質疑に答え、自らの切れ味を試したいと最後コメントしたことに記者席は沸いた。2カ月前に、同じ席で会見したのは元東京地検特捜部長の大鶴基成弁護士だったが、2月13日付で突然辞任。金融商品取引法、会社法違反(特別背任)の罪で起訴した検察側に徹底抗戦するゴーン被告の意向で弘中氏が「登板」した。外国メディアの多い会見場でいくつか印象に残るやりとりがあった。(共同通信=柴田友明)

 新布陣

 弘中氏は郵便不正事件の村木厚子氏、陸山会事件で強制起訴された小沢一郎氏、ロス銃撃事件などで弁護人を務め、無罪判決を勝ち取ってきた「異名」通りの弁護士。

 「今回の事件はほとんどが10年以上前の話で日産も当時から知っていたことばかりだ。なぜ今になって検察に届けたのか大変奇妙な感じがする」「このような事件が起きれば海外から優れた経営者が日本に来なくなると米紙が報じている」「日本の社会のためにもできるだけ早く無罪を明らかにして信用を取り戻す必要がある」。新布陣で臨む弘中氏は弁護人としての立場を明確に語った。

 4日前の2月28日にゴーン被告の保釈請求をしたことにも言及。「(保釈が認められれば)外部との情報交換を制約するため、コンピューターや監視カメラを使った」と、具体的な対応を取ると裁判所に示したことも明らかにした。東京拘置所で100日以上勾留が続くゴーン被告の健康状態は「元気を維持している」と述べた。

 逮捕から100日超の経緯

 これまでに起訴された内容は①2008年のリーマンショックの影響で新生銀行と私的に契約、投資したデリバティブ取引で生じた約18億5千万円の評価損を日産に付け替えた②2011年3月期~18年3月期の自分の役員報酬を過少に記載した有価証券報告書を提出した③投資に関する信用保証で協力したサウジアラビア人実業家側に子会社「中東日産」から約12億8400万円を入金させて日産に損害を与えた、とされている。

 東京地検特捜部は日産やゴーン被告と、オマーン、レバノンにある販売代理店との間の巨額の借り入れや融資への捜査を続けている。しかし、中東にまで広がる膨大な資金の流れ、その不透明さにどこまで日本の捜査が及ぶか、注目されている。

小沢一郎氏を無罪とした東京高裁判決後、記者会見する弁護団の弘中惇一郎弁護士(左)ら=2012年11月12日午前、東京・霞が関の司法記者クラブ

 視点違う欧米メディア

 会見で弘中氏に質問した記者の大半は欧米メディアだった。

 「日産という会社、それに絡んでいるかもしれない経産省。このあたりとどのようにリンクしているか注意している」「鈴木宗男さんの事件で佐藤優さんが『国策捜査』という言葉で説明したが、時代の変わり目、ある大きな政策の転換期にあるときに何かこれまでの社会を代表した人がひどくたたかれるということがあると思う」。事件のバックグラウンドや「歴史性」「社会性」という言葉を使ったことへの質問に弘中氏は具体的な事例で語ろうとしていた。

 「私が弁護士になった50年前の時には、勾留はこんなに長くなかった。起訴されればすぐに釈放されることが当たり前だった。(しかし)段々が長くなって、鈴木宗男さんは400数十日、無罪になった村木厚子さんでも160日ぐらい勾留されている。いま、やっと裁判所も少し反省して以前より保釈が出されやすくなったというのが潮流」。日本の司法では勾留期間が長いと海外で批判されていることへの見解を問われ、自らの経験をベースに答えた。

 司法担当の日本人記者なら通常尋ねない視点だが、欧米メディアの中には刑事被告人のさまざまな権利を保障する日本国憲法(第37条)に検察側が違反していないか、違憲であることを争点にしないかとの質問もあった。

 「検察官の取り調べの時に弁護士が立ち会うことは認められていない。弁護人が立ち会う(取り調べの)法律、規則がない」と弘中氏は日本と海外との司法制度の〝違い〟を説明。別の海外メデイアから「検察の動きは合法的だけど、憲法には違反しているのか」と重ねて尋ねられ、弘中氏が「違憲であると主張する局面はある、憲法も視野に入れて弁護活動する」と答える場面もあった。

 一方、今年1月8日、東京地裁で行われたゴーン被告の勾留理由手続きで、被告本人が法廷に腰なわ、スリッパ履きで現れたことが衝撃だったと感想を語った外国人記者がいた。日本では被告が非人道的な扱いを受ける印象を強く持ち、質問したかのような印象を筆者は持った。

 これに対して、ロス銃撃事件で日本の最高裁で無罪になった三浦和義元社長(故人)が米自治領サイパンで身柄を拘束された時に、赤い服を着せられ、足かせもあったのではないかと弘中氏が答えたことも印象的だった。

 東京地裁は3月5日、ゴーン被告の保釈請求を認める決定をした。弘中氏は取材に「厳しい条件を設定し、裁判所に評価してもらった」と答えている。

ゴーン被告の保釈関連ニュース

2019年3月6日

10:04 日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告が代理人を通じて公表した声明の全文は次の通り。この恐ろしい試練を通じ、私を支えてくれた家族や友人に深く感謝する。また、推定無罪の原則や公正な裁判のために闘ってくれた日本内外の非政府組織(NGO)や人権活動家にも感謝する。私は無実であり、この無意味で根拠のない罪状に対し、公正な裁判を通じ強く抗弁する。(ニューヨーク共同)

13:42 ゴーン被告は、保釈保証金10億円を納付した。保釈される見通し。

16:38 ゴーン被告が勾留先の東京拘置所から保釈された。

【予想外の保釈シーン】勾留先の東京拘置所から出発する工事車両。車の屋根には脚立。作業員の服装で乗り込んだのはゴーン被告だった。

16:54 自民党の岸田文政調会長は会見でゴーン被告の保釈について「司法判断に基づいたもの。コメントは控えなければいけない」と論評を避けた。

17:36 保釈されたゴーン被告の弁護人を務める弘中弁護士の事務所は、6日中に記者会見を実施する予定はないと明らかにした。