被災しても成長する企業に学ぶ 強い企業は「自分流の形を、自社で作っていく」

パネルディスカッションも行われた

東京都中小企業振興公社は1月24日、「被災しても成長する企業に学ぶ〜強い企業の秘訣と組織を活性化させるBCPの構築方法〜」をテーマとするBCP策定推進フォーラムを都内で開催した(企画:リスク対策.com)。

第1部の基調講演では、旭酒造株式会社代表取締役の桜井一宏氏、第2部のパネルディスカッションでは、株式会社白謙蒲鉾店常務取締役BCM推進責任者の白出雄太氏、株式会社オイルプラントナトリ常務取締役の星野豊氏、新産住拓株式会社代表取締役社長の小山英文氏、富士フイルム九州株式会社総務部特命担当部長の布留川朗氏のパネラー4者に、コメンテーターとしてアニコム損害保険株式会社監査役の岡部紳一氏を加えた計5名が登壇した。コーディネーターは株式会社新建新聞社リスク対策.com編集長の中澤幸介が務めた。

旭酒造の桜井氏は「“獺祭” のブランドを守り抜く〜西日本豪雨からの対応〜」と題して、昨年7月の豪雨被害からの復旧と事業継続について話した。被災直後の復旧作業では、純米大吟醸酒“獺祭”の「通年」醸造のために構築している「分業体制」が有効に機能し、チームでのスピードある復旧作業を可能にしたことを紹介。また、停電に伴う醸造タンクの温度制御不能状態から救済され、被災地復興支援の商品としてリリースされた“獺祭 島耕作”についても、需要期であるお盆前の発売のために関係者全員でスピード対応し、発売後数日で醸造タンク150本分の合計58万本を完売することができたことを報告した。

桜井氏はこうした経験を振り返り、「被災した状況から立ち直れたことは、私どもの社員、会社、ブランドにとって、非常に強くポジティブな結果をもたらした。どんな被害でも、立ち直りさえすれば、すごくポジティブで良い結果が待っていると強く感じた。BCPを備え、立ち直っていくことは、会社を強くする意味でも大事」との考えを語った。

多くの聴衆が駆けつけた

後半のパネルディスカッションでは、東日本大震災や熊本地震で被災しながらも、さらに飛躍を続ける企業の事例を中心に、経営強化につながるBCP・危機管理の在り方について議論が行われた。アニコム損害保険の岡部氏による、BCP定着のポイントとその事業経営上のメリットについての分析に続いて、パネラー4者が東日本大震災・熊本地震での復旧対応とBCPへの取り組みについて発表した。

宮城県石巻市を拠点に事業展開する白謙蒲鉾店の白出氏は、BCP策定前段階だった東日本大震災時に、普段からの取り組みで有効に機能したことを振り返り「サプライチェーンの強化を徹底的に図っていたことが非常に功を奏した。仕入れ業者とは最低でも年1回、交流会の場を設けており、その連携が震災直後から有効に機能した」、「リスクファイナンスとして地震保険に加入していたことが大きかった。また、私どもの事業では、中元・歳暮による売り上げの波があるため、運転資金の確保を常に行っていたことで被災後も事業を再開できた」と語った。BCP構築のポイントについては、「あくまで、事業経営のためではなく、人命を守るための活動だということを(従業員に)伝えたことで賛同してくれるようになった」「BCPの策定では、重要業務の絞り方が鍵。重要業務を全従業員に認識させると、自然に多能工化の教育も生まれてくる」との考えを述べた。

宮城県名取市で再生重油などの生産に取り組むオイルプラントナトリの星野氏は、平時の経営での取り組みで、被災時の対応にも繋がることについて「昔から社員研修を減災のための研修という位置付けでやっている。万が一、事故を起こしてしまったらどんな対応をするか、実際に動くといろんなものが見える。想定して動いたことがある人と、何もしなかった人では、大きな差が出てくる」と説明。BCP構築のポイントとしては、「常に問題意識を持って経営することが大事。災害に遭った時、BCPの取り組み次第で明暗が分かれる。想像力、創造力、実行力を掛け合わせた、絵に描いた餅にならない仕組みが大事」と語った。

熊本市を中心に木造注文住宅の新築・リフォームなどを手がける新産住拓の小山氏は、普段の経営で培ってきた会社の風土や社員の雰囲気で、熊本地震時に生かされたことを振り返り「考える組織を作っていたということがある。ポジティブに考えられるように人間力を上げておくこと。また、面談を通じて普段から信頼関係をきちっと作っておくことが、非常時にベクトルを合わせるために大切だった。結果的にそれが機能したと思う」と分析。災害復旧のポイントとしては「(被災時に)建設業で何が起きるかは、建設業で被災した人が一番良く知っている。何かの時に助け合う仲間、仕組みでなく男気で助け合うような仲間がおられると心強いのではないか」と実感を語った。

富士フイルムの生産子会社として熊本市で事業展開する富士フイルム九州の布留川氏は、平時の経営から意識して取り組み、被災時に役立ったこととして「災害は必ず何か来るものだと思うことからスタートするように常々やってきた。漫然と避難訓練するのではなく、その都度、テーマを作りながら、リスク対策を前提とした準備をしてきたことが良かったと思っている」「弊社では、自衛消防本部を設けているが、そのメンバーが災対本部の要員となる。年に1回任命式を行い、メンバーに任命証を渡す。社長が任命することで、防災への動機づけとなる。災害や防災に対する意識、危機感をいかに継続していくかが一番大事。熊本地震もこの4月で丸3年。人が代わり、時間が経つと、災害に対する意識も落ちていく。それをいかに継続していくかが大事」と語った。

パネルディスカッションの議論を受けて、コメンテーターの岡部氏は「BCPを含めてリスクマネジメントというのは、企業の能力を確立することであり、経営そのもの。そのためには、トップの強い明確なリーダーシップだけでなく、社員をいかに活性化させて方向付けをするかが大事。それが今日の5人の登壇者の話からもうかがええた。自分流のかたちを、自社で作っていくことが肝心だ」と総括した。

(了)

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