「 ネットの拡散力もろ刃の剣」 津田さんインタビュー 「罰則なくフェイク野放し」「 読解力が落ち差別を増長」

 フェイスブックやユーチューブといった「ソーシャルメディア」が近年発達し、市民が情報を手軽に素早く発信し、多くの人と共有できるようになった。政治や企業活動に欠かせないツールとなる一方、フェイクニュースやデマがはびこり、混乱や差別を増長している。ツイッターのフォロワー(読者)数が156万人超のジャーナリスト、津田大介さん(45)に現状に対する見解を聞いた。

「デマを信じる人が増えているから差別が顕在化し、社会の分断も加速している」と語る津田さん=東京・西麻布

 -なぜデマは拡散してしまうのか。

 そもそも人は初めて聞く情報を信じやすい。うわさ話や「実は…」的な情報ならなおさら。新規性に対する弱さや興味関心は誰しもある。ただ、職場や学校で誰かのうわさや悪口を話しても大して広がらないが、インターネット上だとフォロワーが多ければ一気に広がる。つぶやく感覚は同じ軽さでも、拡散するメカニズムが昔とはるかに違う。
 この拡散力はもろ刃の剣だ。セクハラを告発する「#MeToo(私も)」運動は世界に広がった。「保育園落ちた日本死ね」という匿名ブログへの書き込みが国会まで届き、待機児童政策を変えた。だが、今はデメリットの方が大きくなってしまっている。
 こうした構造を金もうけや政治的な目的に巧みに利用する人たちがいるのが問題。デマをうのみにして拡散してしまう人々がかなりいる。メディアリテラシー教育にも限界がある。人工知能(AI)で写真や動画が自動生成される時代。報道記者や情報を扱うプロの僕らでさえ見抜けない巧妙なフェイクニュースが増えている。

 -なぜネット上で批判が殺到する「炎上」がこうも頻繁に起きるのか。

 情報流通環境の変化という要素が大きい。かつては人々が世の中の出来事を知るにはテレビか新聞を見るしかなく、寡占状態にあった。ところが社会が複雑化し、2000年代に入るとネットの影響力が強まり、情報は“無料化”された。従来型マスメディアは読者や視聴者を減らし、広告もネットに奪われた。苦境で人員や取材費の削減も迫られ、取材や発信に以前ほど手間もコストも掛けられなくなった。
 新聞であれば記者が取材した情報の事実確認をし、デスクや校閲など複数の目も経て世の中に出す。一方、ソーシャルメディアにそんなフィルターはない。人の記憶というものは曖昧だ。だからネット上には玉石混交の情報が飛び交う。
 ネットの特徴は双方向性にある。ブログには掲示板の機能があるため、ある論に対して異論反論が相次ぐようになった。ポジティブに見れば、これは「情報流通の民主化」とも言える。かつては新聞やテレビがミスリードしても、取り上げられた側が反論する機会が十分ではなかった。今の芸能人は会見よりもネットで発表する。紙面や行数の都合で発言の一部だけ取り上げられ、複雑な背景や文脈が省略されてしまうのを彼らは嫌う。そうした意識が広がり、マスメディアへの不信感にもつながっている。

 -最近は新聞やテレビではなく、ソーシャルメディアで友人に勧められたニュースを見ている若者が多いようだ。

 ソーシャルメディアだけ見ていれば、世の中で起きているいろんなことが分かったような気に何となくなってしまう。社会の問題に関心を持たなくても、日本ではそこそこ生きていける。時間も楽につぶせるし、LINE(ライン)の友人とのやりとりの方が楽しく、それで十分ということだろう。スマホしか手に取らない彼らに向け、新聞社にしかない情報やサービスをデジタル版で提供できるかが問われている。

 -フェイクニュースはそんな簡単に生まれるのか。

 ツイッターは140文字制限なので言葉足らずになりがち。利用者本人もフェイクを流すつもりはない。だが日本人の読解力はどんどん落ちてきている。自分が皮肉を書き込んでも、相手に通じず、全く違う意味に受け取られてしまうケースは増えている。
 読売新聞の購読者は約800万人。一方、ツイッター利用者は2011年時点で約670万人だったのが今や約4500万人に達し、国民の3人に1人が使っている。ここで情報をゆがめて流しても罰則はなく、野放しなのが実情だ。ツイッターやフェイスブック、グーグル、ヤフーのような情報を流す「プラットホーム事業者」もなかなか責任を取ろうとしない。

 -それを放置するとどうなるか。

 行き着いた先がブレグジット(英国のEU離脱)やトランプ米大統領の誕生。日本でも沖縄に心ないデマが浴びせられている。それを信じる人が増えているから差別が顕在化し、社会の分断も加速している。
 だからといって過度な規制で表現の自由を狭めることには慎重であるべきだ。マレーシアではフェイクニュース禁止法が時の政権によって言論統制や批判層への弾圧に利用された。プラットホーム事業者への規制はEUで議論が先行しており、日本では全く見通しが立っていない。

 

◎津田さん長崎で講演 「ソーシャルメディア全盛時代における新聞の可能性」

 津田さんは3月9日午後0時半から、長崎市茂里町の長崎新聞文化ホールで「ソーシャルメディア全盛時代における新聞の可能性」と題して講演する。主催の長崎新聞労組(山口栄治委員長)は来場を呼び掛けている。
 新聞は人々に必要とされず消えていくのか、新聞がなくなれば社会はどうなるのか、新聞がどう変わればもっといい世の中になるのか-。津田さんの講演や質疑応答を通じて、これらを考える機会にする。市民がソーシャルメディアやマスメディアとどう向き合えばよいのかについてもアドバイスしてもらう。
 講演は同労組3.1市民集会の一環。事前申し込み不要。参加費500円(大学生以下は無料)。有料駐車場あり。問い合わせは同労組(電095.845.2951=平日のみ)。

 


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