【雪山登山】ワカンとスノーシューどっち買えば良いの? 実力をスノーフィールドで比較検証! 暖冬の影響で、例年に比べ積雪量がかなり少ない2019年ですが、北陸や日本海沿岸、北関東などはさすがの豪雪地帯、安定の積雪量!モッフモフの新雪パウダーを歩くスノーハイクは最高です。 でも、アイゼンやピッケルを必要とする山から、ワカン、スノーシューを必要とする山までギアの選定はさまざま。 特に、ワカンとスノーシューってなんだか似てる・・・。 それぞれどんな特徴があって、どっちを買ったら良いの? 今回はそんなワカンとスノーシューの違いについてご紹介します。

雪の上を楽に歩ける秘密兵器!ワカンとスノーシュー

登山を開始して、初めてのスノーシーズンを迎えると、「ワカン」だとか「スノーシュー」だとか聞きなれない単語を耳にするように・・・。 アイゼンとピッケル(写真)は聞いたことあるけど、ワカンやスノーシューって一体なに? かくいう筆者もそんな頃がありました。

正体はコレ

いずれのギアも雪上歩行を容易にするアイテムで、登山靴やスノーブーツに装着するものです。 写真右のワカンは「輪カンジキ」の略称で、古くは雪深い時期と場所での狩猟などに用いられていました。 一方、スノーシューは「西洋カンジキ」とも言われ、ワカンの西洋バージョンであると言えます。

ワカンは日本山岳の里山などの狭い樹林帯を自由に動き回れるよう、スノーシューは広い大雪原を快適に移動できるよう、それぞれ異なる環境向けに作られ発展してきました。

実際のシーンではどう? スノーフィールドで比較してみた!

…と、文章で説明してもなかなかイメージしにくいところ。そこで実際にワカンとスノーシューはどのように異なるのでしょうか?
2019年1月2日、天気は降雪。 0℃程度の気温のなか、豪雪地帯である福井県の三十三間山にてフィールドテストを実施しました。

スノーシュー2名 VS ワカンの筆者。雪が浅いうちは大差なし

つぼ足から開始し、徐々に雪深くなってくるトレイル。 さぁそろそろ履こうかとスノーシューとワカンを履いた状態。左がスノーシュー右がワカン。 まだまだこの辺りでは大差ありません。 尚、2人とも体重は65kg前後でほぼ同条件です。

またしばらく進むと雪が深くなってきました。 左がワカン、右がスノーシューですが、微妙に沈み具合に差が出てきました。 でも、まだまだへっちゃらです!

しかしながら、残るトレースを見ると、だんだんその差が顕著になってきました。 左がワカン、右がスノーシューのトレース。

そして、ワカンでは明らかに沈み始めました。

結局こんな状態に・・・。

この時、同行者を見ると・・・。 沈み込み方が全然違う!

一人だけ膝上ラッセルを頑張り、ようやく山頂に続く雪原の稜線に出ました。
そしてここから、ワカンとスノーシューの浮力の圧倒的な差は、更に激しくなるのです・・・!

稜線は更に雪深く・・・

繰り返しますが、時は1月2日、しかも降雪。 こんな日に歩いている物好きハイカーは他に居ませんでした。 よって、稜線はまだ誰も踏んでいない新雪が積もり、足を置いても雪面からの反発力はとてもか弱く心もとない状態です。

スノーシュー組を見ると、10cmほど沈み込んだ状態で歩けているようなのですが・・・

ワカン装着の筆者はなんとこの状態!デフォルメ無しで、股下まで沈下しています。 這い上がろうとするも、上げた片足に力を込めると沈み込み、の繰り返し。 歩こうにも1歩で5cmや10cmしか進めません。 もはや歩いているというより、もがいている状態となりました。

※見易いように色合いを補正しています。

こちら、フォト中央から右に、2人分のスノーシューで踏み固めてもらったトレースが伸びています。 その上をワカンで追うも、一歩一歩が地盤沈下です! スノーバスケットを装着したトレッキングポールもグリップまで沈み込むため、罠に掛かった昆虫のようだと同行者。

置いてきぼりにされるワカン装着者

(背中が遠くなっていく…)

そして、スノーシュー組は難なくスイスイと歩いていき、2人のトレースを1人ラッセルで追う状態が続きました。 こうなると 1メートル進むのも本当に大変です。

ようやく雪質が変わり、ワカンでもしっかり歩けるゾーンに入りました。 100メートルもない程度の区間でしたが、遅々として進まず、本当に大変でした。

三十三間山の山頂に這う這うの体で無事到着!
先頭を行った同行者は、筆者到着を待つ時間で、すでに昼ごはんを終え掛けていました。ワカンとスノーシューでは、圧倒的な浮力の差を体感するに至ったのです。

じゃあワカンのメリットっていったい何?

しかし、ワカンにも良いところはあります。その特徴を見ていくと、 ワカンは上の写真からもわかるとおり非常にシンプルな作り。 幾つかメーカーと種類がありますが、基本的にアルミなどの軽量、かつ高強度の素材を円形の輪状にしたもので、ベルトを固定リングに通し、足に装着します。 コンパクトなため、軽量かつ携行性に優れ、また装着後の歩行時にもそれほど重さを感じることなく歩けるのです。

ワカンとアイゼンのハイブリッド化?!

(とっても軽い!)

軽量でコンパクトであるため、左右のワカンが干渉しにくく、足さばきも容易と言えるでしょう。 また、斜面ではワカン先端を雪面に蹴り込み易く、つぼ足やアイゼン装着時のキックステップ同様の足さばきが可能のため、樹林帯などでの機動力は抜群です。 更に、アイゼンとの併用装着も可能なものもあるため(ワカンへのダメージには要注意)、岩と雪がミックスされたようなコンディションでも有効なのがうれしいポイントです。

でもやっぱり沈む・・・

反面、コンパクトであるため雪面への接地面積が小さく、新雪&深雪のシーンでは、先ほどの比較のように浮力が不十分なことがあります。

スノーシューの特徴・メリットとデメリットは?

一方スノーシューは、ワカンと比較するとサイズも大きくなり、一般的に細長い楕円形です。 海外製が多いためサイズ表記はインチで表され、当然サイズが大きければ雪面への接地面積が大きくなり、より高い浮力を得ることができます。 反面、重量増や携行性が劣るなどの課題が出てきますので、自身の体力や体重を考慮し、最適なサイズのものを選ぶと良いでしょう。 購入の際は、ショップスタッフさんに相談しましょう。

スノーシューには「平地用」と「登り用」がある!?

また、スノーシューには大きく分けて「平地を歩くことを想定したもの」と「積極的に登りでも使うことを想定したもの」がありますので、自身がスノーシューでどんなスタイルのハイクを楽しみたいのかによって、購入するスノーシューを選定することが必要です。 前者は「軽量で安価」でホームセンターなどでも購入でき、後者は「少し重めで高価」で登山ショップなどで購入する、という大雑把な傾向があります。

登りで使用するためには、シュー裏面にクランポン(爪)がある事と、ヒールリフターと呼ばれる踵を持ち上げた状態で固定できるパーツが必要です。 急斜面の登りでのふくらはぎへの負担が大幅に軽減されます。

スノーシューの圧倒的なメリットはやっぱり・・・!

そうです、ずばり浮力です! 先ほどの比較でもお分かり頂けたかと思いますが、ワカンと比較するとスノーシューの浮力は非常に高く、ワカンでは結局ラッセルしなくては・・・という様な深雪エリアでも、スノーシューならスイスイ歩けることが多々あります。 (※雪の状態による)

自身の雪山スタイルに合った選定が◎

今回の三十三間山は、雪深く、かつ歩く人がそれほど多くないことから、スノーシューが好ましいことが事前にわかっていたため、フィールドテストに最適とワカンで行ってきました。 例年より積雪が少なかったこともあり、ワカンでも股下程度のラッセルで済みましたが、やはりこの山はスノーシューで行きたいところ。

基本的に、「人気の山で多くの人が歩いている」場合は、踏み固められたトレースをなぞればワカンでも苦なく歩けます。 が、「ひと気が少ない」「降雪が多い=新雪・深雪」「ひと気が多くとも前夜に降雪があった」などの場合は、ラッセルに苦労することがあります。

とは言え、樹林帯など木の根が所々出ているような箇所や狭いところ、斜面の登りなどでは、ワカンの機動力と足さばきの容易さはすばらしいものがあります。

また、雪山では一夜にしてコンディションが変わることがあるため、お財布に余裕があれば、ワカンとスノーシューの両方を保有していると、当日朝の状況でどちらを使用するかを決められるので安心です。

筆者の場合、基本的に「アイゼン」と「ワカン」を使う山を選定することが多く、「スノーシュー」はほのぼのトレッキングで遊びたい時に使用しています。

あくまでも一例としてですが、幅広く使える「ワカン」を購入し、「スノーシュー」は平地でのポクポクトレッキング、ファンハイクと割り切り、安価なものを購入するというのも一案です。

ぜひ、ご自身の雪山スタイルに合わせ、最適なギアを選定し安全なスノーハイクを楽しんでください。
それでは皆さま、どうぞ良いハイクを!

文 : 三宅 雅也 (山岳ライター/長野県自然保護レンジャー)

© 株式会社スペースキー