存在感発揮のマサルも「里帰り」が難しい理由

ザギトワさんの愛犬

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太田清

47NEWS編集長

太田清

47NEWS編集長

共同通信社入社後、広島支局、大阪社会部、外信部、経済部、ベオグラード支局、モスクワ支局、ローマ支局などを経て2016年より現職。イトマン事件、阪神大震災、コソボ紛争、ユーゴ空爆、モスクワ劇場占拠、アフガン紛争、ギリシャ財政危機、東日本大震災などを取材。

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3日、「サクラフェスティバル」に登場したザギトワ選手(左)と愛犬のマサル=モスクワ(共同)

 昨年5月に秋田県大館市の秋田犬保存会から平昌冬季五輪フィギュアスケート女子金メダリストのアリーナ・ザギトワ選手(ロシア、16歳)に贈られた雌の秋田犬マサル。2月には満1歳となり、ザギトワさんが自分のインスタグラムに日本語で「あなたがいてくれて私は本当に幸せで、あなたは私の支えであり、私を鼓舞してくれる存在です!」と書き込んだほか、トゥトベリゼ・コーチがザギトワさんとマサルが氷上で“トレーニング”する動画を紹介するなどロシアでもすっかり人気者に。  

 モスクワで3日開かれた日本各地の魅力を紹介する「サクラフェスティバル」(日本外務省主催)にはザギトワさんとともに登場。贈呈された当時の生後3カ月の子犬から、すっかり大きくなった元気な姿を見せ、会場を沸かせ存在感を発揮した。 

 ザギトワさんは「とてもおとなしく、よく言うことを聞く」と紹介、「マサルの生まれ故郷の秋田にも行ってみたい」と語った。折しもザギトワさんは20日からさいたま市で始まるフィギュアスケート世界選手権に出場予定で、マサルの「里帰り」に期待がかかったものの断念。犬を日本に持ち込むのは、実はそんなに簡単なことではない。 

狂犬病 

 犬の検疫で最も重視されるのが狂犬病予防。いったん発症すれば致死率ほぼ100%の恐ろしい感染症だが、日本では1957年以来、発生は報告されていない。世界的に見ても日本が認める狂犬病のない「清浄地域」はアイスランド、オーストラリア、ニュージーランドなど6地域(すべて島国・地域)しかなく、それ以外の国・地域からの犬の持ち込みには厳しい検疫を経ることが必須だ。ロシアはもちろん清浄国でなく、2008年には5000例以上の動物の感染が確認された。 

 動物検疫所成田支所によると、ペットブームによる犬の輸入増や海外での狂犬病発生の事情を考慮し、日本は2004年に検疫を強化。英国などと並び世界で最も厳しい手続きを求める国の一つとなった。それまで何の対応もしていなければ少なくとも7~8カ月の準備期間が必要とされる。 

180日以上 

 まず、個体識別のための皮下へのマイクロチップ埋め込みからスタート。1回目の狂犬病予防注射し30日以上の間隔を置いてから2回目を実施。その後、採血し日本の農林水産相が指定する検査機関にサンプルを送り狂犬病の抗体値を測定。一定以上の抗体値を得なければならない。 

 さらに、採血前に狂犬病に感染し潜伏しているケースを想定し、採血から180日以上の待機期間が必要となる。180日未満で日本に連れていった場合、足りない期間分、空港近くの係留施設で犬だけ留め置かれることになってしまう。実は、筆者が勤務地のローマから帰国する際もうっかり「180日ルール」に気づかず、手続き開始が遅れ、愛犬は成田空港近くで約1カ月、独りで過ごすことになってしまった(涙)。 

 日本到着の40日前までには到着予定の日本の動物検疫所にファクスなどで届け出を提出するほか、出国直前に獣医師の最終チェック。輸出国政府機関発行のマイクロチップ番号などが書かれた証明書も取得し、日本到着後に動物検疫所でまた検査があり、すべて問題がなければ犬は晴れて12時間以内に入国を許されるが、書類に不備があったり、条件を満たしていなかったりすれば係留施設に長期間留め置かれる羽目に。係留中の費用はもちろんオーナー持ちだ。 

予防注射 

 あれもこれも、すべては絶対に狂犬病を日本に持ち込まない必要から生じている。特に近年、ペット数が増える一方で半世紀以上狂犬病の発生がなく、警戒感が薄れ予防注射接種率が自治体によっては50%台と低下(しかも、登録頭数内の割合なので実際はもっと低いとの指摘もある)している。こうした中、いったん狂犬病が持ち込まれれば一気に感染が広まるおそれがあり、警戒は怠れない。とはいえ、今後も日本でのマサルはぜひ見てみたい。日本の大使館もお手伝いして、里帰り実現に協力してあげてほしい、と個人的には思うのだが。 (共同通信=太田清)