まるでアニメ、「着る」ロボットの可能性  テクノロジーの向かう先は

アトウンが開発中のロボット型スーツ「ニオ」=奈良市

 ロボットを衣服のように自然に着て自由に動きたい。パワー補助ウエア「モデルY」を開発したパナソニックの子会社アトウン(奈良市)が目指すのは、そんな世界の実現だ。

 ▽人間の自己イメージを変える?

 Y字を逆さにした形状のカーボン樹脂製装置をリュックサックのように背負い、腰と太ももにベルトで固定する。力む間もなく、重さ約20キロの瓶ケースが床から楽々と持ち上がった。装置の重さは気にならず、歩いたり体をひねったりしても動きの邪魔にならない。力仕事をサポートされている感覚はなく、ロボット型スーツを身に着けていることを忘れそうなほどだ。

アトウンのパワー補助ウエア「モデルY」を持つ藤本弘道社長、右奥は開発中の「ニオ」=奈良市

 物を持ち上げるときは曲げた腰を押し出す動きを補助し、下ろすときは腰の負担を軽減するブレーキの役割を果たす。藤本弘道社長は「内蔵モーターが動作に合わせて違和感なく腰の動きを助ける」と解説する。昨年7月に発売し、既に農業関連や物流の会社から約130台の受注が舞い込んだ。

 アトウンは人間の能力をサポートするだけでなく拡張することも目指している。開発中の「ニオ」は、アニメの戦闘用ロボットを想起させる外観だ。胴体部分に人が入り、金属製の長い両腕で重機のように計100キロの物体を運べる。

 このようなロボットを日常的に利用するようになれば、農業や林業、災害現場などで果たせる役割が飛躍的に拡大する。「手足の能力や感覚が拡張された状態に慣れ、人間が新しい自己イメージを持つ」(藤本社長)可能性も開けてくる。

 ▽ロボットアニメを見ているよう

 ロボットを自分の体のように操作して建設現場などで重労働を担う「人型重機」の開発を進める企業もある。2007年に設立された人機一体(滋賀県草津市)の金岡博士社長は「世界から人の苦役をなくす」と壮大な目標を掲げる。

 開発中のロボットの機能を社長自ら実演して見せてくれた。操縦席に乗り込んで専用ブーツに両足を差し込み、両手にトリガーを握る。両手を前に押し込むと、そばに置いた人型の機械がぐいと素早く両手を伸ばした。腕の力は人間の10倍以上に達する。まるでロボットアニメを見ているようだ。

 頭に装着したVR(仮想現実)ゴーグルにはロボットの視界が映し出され、操縦者の両手両足の動きに合わせてロボットも動く。コンピューターで体のバランスを自動制御する機能も備え、2足歩行も実現が見えてきた。現在は遠隔操作だが「最終目標は人間がロボットに乗り込むこと」(金岡社長)で、20年の試作機完成を目指す。

 ▽リハビリにも活用

 人間と機械の融合は、全身をつかさどる脳の領域でも進む。

 「右、左、右、左…」。歩行訓練を手伝うスタッフのかけ声に合わせ、70代の男性がゆっくりと自身の足で前進する。ロボットベンチャー、サイバーダイン(茨城県つくば市)のトレーニング施設で、同社が開発したロボットスーツ「HAL(ハル)」を腰から足にかけて装着した男性が、リハビリの歩行訓練に励んでいた。

ロボットスーツ「HAL」を装着して歩行訓練する男性=茨城県つくば市

 脳は足を動かす際に、神経を通じて筋肉に電気信号を送る。HALは太ももなどにセンサーを貼り、この電気信号が皮膚の表面から漏れ出すのを感知し、脳の指令をリアルタイムでモーターに伝えて足の踏み出しを補助する。

 男性は7年前に頸椎を損傷し、肩から下が動かない。だがHALの支援を受けながらリハビリを続けるうちに、脳の指示が筋肉に伝わる感覚が戻ってきたと感じている。サイバーダインの山海嘉之(さんかい・よしゆき)社長はHALの効果について「脳とコンピューター、ロボットが一体化し、人間が本来持つ機能を改善できる」と説明する。

 HALは医療向けや力作業支援など用途別に複数のタイプがあり、これまでに2300台超が企業や病院に納入された。全日本空輸は腰に装着して作業を支援するタイプを80台導入した。重い手荷物を持ち上げる従業員の動作を補助してもらうのが目的で、既に成田空港で実証実験を行った。大和ハウス工業も住宅用建材の生産工場で同タイプのHALを活用している。

インタビューに答えるサイバーダインの山海嘉之社長

 人間がロボットを装着して日常生活を送ったり働いたりする場面は今後確実に広がっていく。さらなる進化が見込まれるロボットとの間で、人間はどのような関係を構築すべきなのか。山海社長は「健常者がスーパーマンになるようなものではなく、(体の不自由な)人が身体機能を改善し自立を保つためにこそテクノロジーを使うべきだ」と持論を語った。(共同通信=吉本信頼、千野真稔)

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