平成の家族(5)「見守ってくれてありがとう」墓参は代行

©株式会社神奈川新聞社

墓参りを代行する「さくらサービス」の金山さん =川崎市高津区

 1月下旬の寒空の下、砂利石の隙間に生える雑草を抜き、ぬらした手拭いで墓石を丁寧に磨く。火を付けた線香の先端が赤くともる。一筋の煙が立ち上ったことを確認してから、男性は鮮やかな生花とともに墓前に手向け、静かに手を合わせて目をつむり、そして祈った。「いつも見守ってくれてありがとう」

 どこの墓地でも見られる光景。男性はしかし、故人の親戚でも旧友でもない。墓参り代行業者だ。

 「墓参できていないことが気掛かりだった」。会社員の大谷千明さん(58)=川崎市川崎区=は代行を頼んだ理由をそう語る。両親と兄が眠る霊園は自宅から車で1時間以内の距離にある。それでも仕事などに追われ、なかなか足を運べない。「お墓は大丈夫かな」と心配しているうちに代行を知り、感謝の念を託して依頼した。墓参後に送られてきた、きれいになった墓の写真を見て「喜んでくれたのでは」と安堵(あんど)した。

 代行したのは「さくらサービス」(同)の代表・金山隆志さん(48)。事業を始めたのは8年前、父の死がきっかけだった。建墓のため家族で訪れた霊園で、手入れが行き届かずに荒れ果てた数々の墓を目の当たりにした。雑草が生い茂る敷地、コケの生えた墓石-。「代わりに墓参できる人がいればいいのに」。ショックを受けた妹の一言が起業の決め手となり、当時勤めていた会社を退社。墓参り代行と墓石クリーニングを始めた。

 「1年目は大変だった」。同種の業態がほとんどなく、認知されるまでに時間がかかった。インターネットや口コミなどで少しずつ広まり、高齢で足が遠のいている人、体が不自由な人、仕事が忙しくて時間がつくれない人、墓が遠方にある人などから依頼されるようになった。

 利用者は年々増え、お彼岸やお盆などの繁忙月には首都圏を中心に東北から九州まで月20件ほど墓参を代行する。年間の売り上げも5年前の約2倍になった。少子高齢化や共働き世帯の増加、都心部への人口集中などの追い風はますます強くなると見込んでおり、「ニーズはさらに高まるのでは」。

 山田丈紀さん(69)=千葉県船橋市=は、年に数回は埼玉県行田市の実家に帰省し、先立った妻や先祖が眠る墓に立ち寄る。それでも間隔が空いてしまうときには代行を利用する。

 懸念するのは「昔は家族でよく行っていた」という子どもたちとの墓参り。妻の死を機に家族のつながりが希薄になり、一緒に行くことも減った。「自分がいなくなったら、誰も行かなくなるのではないか」と嘆く。

 神奈川県石材業連合会の会長で、老舗「松原石材店」(横浜市鶴見区)の10代目・松原育美さん(70)は、墓を巡る時代の移り変わりを見てきた。

 代行という新たな墓参の姿を肯定的に受け止め、「何らかの事情でお参りができないことは誰にでもあり得る。代わりに行ってもらうのは、先祖を大事に思っている証し」と評する。

 一方、最近は遺族の負担を減らそうと生前に樹木葬や海洋葬などを選択する人も増え、「石屋としては大変だよ」と苦笑い。「墓石に向かって手を合わせることは、先祖を思うのと同時に自分の心を落ち着かせるためでもある」

 故人に思いをはせる墓参り。今も昔も墓は家族を結ぶ歴史であり、残された人々の心のよりどころだ。