<再生への視点 統一地方選を前に>・12 南松浦郡区 限界集落 心配尽きぬ“老老介護” 高齢化進み「共助」困難

 「寒くなかごと、せんばよ」。2月中旬、長崎県新上五島町間伏郷。自宅でテレビを見ていた田村ミチ子さん(83)に、夫の宏さん(83)=いずれも仮名=がそっと上着を掛けた。4人の子どもが独立した約40年前から2人で暮らす。体調がすぐれないミチ子さんを宏さんが支えている。
 ミチ子さんは2013年2月、脳梗塞が原因で左半身が不自由になった。つえが手放せず、付き添いがないと外出もままならない。宏さんが食事作りなど家事の大半を担う“老老介護”の生活だ。
 この地で生まれ育った宏さんによると、成人を迎えた1955年ごろ、集落には130人以上が住んでいたが、若者らは次々と古里を離れ、現在は3世帯6人にまで減った。高齢者ばかりで、互いに支え合うのは困難という。
 宏さんは3日に1回、ミニバイクで往復約40分かけ、自宅がある若松島の中心地区まで食料品などの買い出しに出掛ける。路線バスが通ってはいるが、午後6時台が最終。最寄りのバス停までは家から約2キロ離れている。「私が世話できなくなれば、妻は施設に預けざるを得ない」。今後の心配は尽きない。
 人口減少に伴い、町の人口は約1万9千人。高齢化も深刻で、県によると、65歳以上の高齢者が占める割合は約39%(18年1月現在)と県内自治体では北松小値賀町に次いで2番目に高い。
 新上五島町は援助が必要な町内の高齢者らへの支援策として、1人暮らしのお年寄りや高齢者世帯などが業者に日用品や食料の買い物代行を依頼した場合、配達手数料の一部を補助している。町は今後、「移動販売などの方策を官民で協力して考えたい」とするが、抜本的な解決には至っていない。
 高齢化や若者の島外流出は、介護の現場にも暗い影を落とす。高齢者らのデイサービスや訪問介護などに当たる同町社会福祉協議会。介護スタッフら職員約160人の平均年齢も40代後半と上昇傾向にある。若手確保は容易ではなく、ある職員は「介護は体力勝負でもある。力のある若い人でないとできない作業もある」と先行きを懸念する。
 高齢化と過疎化で、自分の身は自分で守る「自助」も、地域住民らで助け合う「共助」も難しくなっている“限界集落”。「都会に人が集中する一方で地方は人が減り、生活ができなくなっている」と肩を落とす宏さん。住み慣れた土地を離れたくはないが、「必要なら生活が便利な中心地に転居しようか」。そんな思いも頭によぎる。

田村さんの自宅から約2キロ離れたバス停。日中も通る車はほとんどない=新上五島町

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