第1回:もう一つの危機的事態 災害は忘れたころにやってくる

災害に無関心でいるとしっぺ返しが起こりうる(写真は西日本豪雨の被害が大きかった倉敷市真備町)

■実行が伴わなければ意味がない 

「BCP(事業継続計画)」という言葉は、今やビジネスの世界では「防災・減災」と同じくらいに一般用語として定着している。一昔前なら、初めて会う人にBCPのことをあれこれ説明するのは少し億劫に感じたものだが、今ではBCPと口にしただけで「ああ、BCPね」とすぐにあいづちを打ってくれる人が増えた。

しかしこの言葉が広く普及しているからと言って、BCPそのものが企業に広く根付いているとは限らない。筆者の経験から言えば、とくに中小企業の場合、BCPという言葉は知っていても、それを積極的に自社の経営に組み込んで万一に備えているという会社は決して多くはない。

理由はいろいろあるだろうけど、やはり一番気がかりで取り組むべき優先順位が高いのは、日々の経営課題だろう。スムーズな資金繰り、安定した収益、労働力不足の解消などなど…。目の前にこうした課題が山積していたら、BCPなど後回しになるのは無理もない。

内閣府の統計によれば今日、大企業の6割強、中堅企業の5割弱がBCPを策定もしくは策定中だという。こうした数字を見る限り、日本には災害に強い企業が増えつつあるような印象を受けるが、中小企業にBCPが広く普及しない限り、楽観はできない。大企業を支えている取引先の大半は、その裾野に広がる圧倒的多数の中小企業だからである。カタストロフィックな災害が起こったとき、大企業や中堅企業だけが自己完結的にBCPを運用しても、どこまで事業への影響を回避できるかは不透明だ。

したがって中小企業に対し、これからも継続的にBCPの必要性を訴えていくことは十分に意義のあることと考える。再びBCPの連載を始めようと思い立ったのも、そんな思いからである。

■災害に興味がない人が増えている!?

ところで2018年の夏の終わり、通信プロバイダー大手のBIGLOBEがユーザーを対象に「災害に関する意識調査」というアンケートを実施したが、筆者はこのアンケート結果に次のような少し気がかりな所見があることに気づいた。

回答者の過半数が「過去に起きた災害を忘れてしまう」と答えているのである。なるほど、近年はあちこちで大規模災害が多発しているから、これらをいちいち覚えていたり気にかけていたら神経が参ってしまうよということなのかもしれない。この「忘れてしまう」という回答に、早く忘れてしまいたいという意思のようなものを感じるのは筆者だけだろうか。

おまけに20代男性の4人に1人が「過去の災害には興味がない」と回答している。少し厳しい見方をすれば、こうした姿勢は「過去の災害を見て見ぬふりをする、災害の教訓を今後に生かそうとは思わない」と答えているのと変わりはない。

8年前の東日本大震災の後、「この未曾有の大災害を"過去のこと"にしてはいけない。また明日にも起こるかもしれない次の災害への備えを万全にしよう」といった声があちこちからあがったものだ。当時に比べ、今日の冷めた姿勢には大きな隔たりがあることは否めない。

思うにこうしたネガティブな意見は、必ずしもアンケート回答者個人に帰して済むことでもなさそうだ。私たち一人ひとりの心のどこかに、やはり災害を「過去の出来事」や「対岸の火事」として早く忘れたい、見て見ぬふりをしたいという気持ちがあるのではないか。もしそうだとすれば、災害に対して後ろ向きの空気を作り出してしまう何かが、この社会の中にあるのかもしれない。

■"災害"が私たちの意識から遠のいてしまう理由

ここ数年(ワイドショーなどは別として)、災害報道がめっきり減ってしまったが、これも私たちの意識に何か変化を与えている要素の一つだろうか。例えば2018年7月に起こった西日本豪雨災害の時のこと。

気象庁がこれまでにない危険な豪雨災害が起こりつつあると発表する中、全国ネットの大手テレビ局はどのチャネルもいつも通りのバラエティ番組一色だった。NHKですら番組の枠外にテロップで流していただけである。以前ならばただちに災害報道特別番組に切り替わったものだが。この頃、タレントのカンニング竹山氏がツイッターで「他人事みたい」「終わってんな…」とつぶやいたそうだが、多くの人が同様の違和感を感じていたはずだ。

視聴率がとれなければ放送する意味がない。国民に危機を知らしめる義務や使命感よりもスポンサー企業が望む番組を流し続ける方が大事である。放送局があからさまにこのように考えているわけではないだろうけど、昨今の報道姿勢を見る限り、視聴者からそう誤解されてもしかたのない現実がある。

一方、私たちにも、自発的に災害情報を避ける意識が働いていることは否定できない。過去の情報にしてもこれから起こることを警告する情報にしても、災害情報というのは不安をあおり、気持ちを暗くするものだ。なるべく見聞きしたくない。そもそも一般市民にとって災害情報はこちらからわざわざ取りに行くものでもない。すべてニュースやアラートとして何もしなくても向こうから飛び込んできてくれるのだから。

このように思っていると、あなたの情報アンテナからは災害に関する情報はスッポリ抜け落ちてしまう。その結果、防災意識も危機に備える姿勢も薄まってしまうのである。先ほど述べたネガティブなアンケート結果などは、こうした理由も関係しているのではないだろうか。原因がどこにあるにせよ、災害が私たちの意識から遠のいてしまうという今日の現実は、もう一つの危機的事態と呼んでも過言ではない。

(了)

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