「命が助かる保証はない」脱北者家族3人が強制送還の危機

ベトナムのハノイでは米朝首脳会談が開催された。また、先月16日の光明星節(金正日総書記の生誕記念日)、今月10日の国会議員にあたる最高人民会議の代議員選挙など、北朝鮮では政治的ビッグイベントが相次いでいる。

今回に限らず、政治的に重要な時期には国内で厳戒態勢が敷かれるが、それをあざ笑うかのように、脱北が相次いでいると中国遼寧省の瀋陽の情報筋が伝えた。

中国との国境に面した両江道(リャンガンド)金正淑(キム・ジョンスク)郡に住んでいた家族4人が先月19日、忽然と姿を消した。地元の保安署(警察署)は脱北したものと見て、捜査を行っている。

通常、家族単位での脱北は、先に脱北して韓国に住んでいる家族の手招きで行われることが多いが、今回は必ずしもそうとはいえない模様だ。

「正確な内容は把握できていないが、生活苦で川を越えたようだ」(情報筋)

管轄の保安員(警察官)はとばっちりを食っている。保安員は、一家がいなくなったことを10日以上把握できなかったとして、郡の保衛部(秘密警察)に呼び出され、取り調べを受けている。脱北を幇助したのではないか、との疑いがかけられている可能性がある。

それを見た同僚の保安員は、地域住民に対する監視の目をさらに光らせるようになった。政治的に重要な時期である上に脱北事件まで起きて、些細なことでも詰め腹を切らされる恐れがあるからだ。

保衛員たちも管轄区域で脱北防止のための監視を強め、深夜にも宿泊検閲(無断で他人を泊めていないかの立ち入り検査)を行っているという。

一方、脱北に失敗して強制送還の危機に瀕している人たちもいる。

両江道の普天(ポチョン)に住んでいた家族3人はブローカーの手助けで脱北し、瀋陽に到着したものの、他の地域に移動しようとしていた2月末に公安当局に逮捕された。

現在、取り調べを受けており、今後は北朝鮮に強制送還される可能性が高い。情報筋は「時期が敏感なので、強制送還されれば命が助かるかどうか保証はない」と見ているが、今のところ釈放や救命活動の動きは伝えられていない。

中国東北最大の都市で交通の要衝である瀋陽は、韓国や第三国を目指す脱北者が通過または一時的にアジトで滞在することが多く、ここで摘発される人も少なくない。

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