立ち上がる被災地 厚真・安平・むかわ【下】

「心の復興」愛馬と歩む

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「ここで生きていこう」「泣き言は言えない…」

◇イベント開く

「町民と協力して地震を乗り越えたい」と語る西埜さん

 「山は自分の仕事場。土砂崩れが頭をよぎっていたら仕事にならない」

 厚真町唯一の馬搬農家、西埜(にしの)将世さん(38)=宇隆地区=は落ち着いた口調で現在の心境を語った。

 昨年9月の地震で自宅は半壊。6日現在、自宅の敷地内に建てた応急仮設住宅で暮らす。厩舎(きゅうしゃ)には影響がなく、馬がパニックにならなかったことが救いだった。

 人と馬がペアとなり、人が伐採した木材を馬が運ぶ馬搬。一本一本森にとって必要な木か判断し「20本に1本程度」伐採する。重機の跡は付かず生態系への影響も少ない。

 ただ、日本には数人しかいない馬搬農家。「伐期が短い既存の林業が必要なのは間違いない。ただ、馬が作業した後の美しさは何にも代えがたい」と語る。

 相棒のばん馬・カップ君と森を数キロ進み、3メートル以上の木を5本程度伐採する。「水が苦手なのがカップの課題」と優しく笑う。

 岩手大学の農学部で林業を学んだ西埜さんが馬搬に興味を抱いたのは、イギリスとスウェーデンでの視察がきっかけだった。林業の選択肢として確立され、生活に根付く様子に憧れを抱いた。

 同町へ移住したのは2017年(平成29年)3月。「地震を経験して、ここで生きていこうと一層強く思えた」と話す。今年2月、土砂に埋もれた木を馬搬する様子を、安平町内の保育園児に見学してもらうイベン
トを開いた。すでに愛馬と前を見据えている。

◇地震を逆手に

大破した友人のトラクターを見つめる伊部さん

 「用水路補修のめどが付くだけで、心の復興は始まってんだ」

 厚真町の農家、伊部義之さん(50)=富里地区=の自宅前の土砂の撤去は6日現在も進んでいない。ただ、中古車の購入や工事の着工日の決定など「一つ一つの動き」に復興を実感すると繰り返し強調した。

 昨年9月の地震で、自宅の裏山が崩れ、三つのビニールハウスは全壊。水田(16・4ヘクタール)の一部が土砂に埋まった。母カウさん(79)と避難して、2人は無事だったが親戚や友人を亡くした。そのうちの1人が、同地区に住みともに稲作や畑作に励んできた佐藤正芳さん=享年(65)=。

 一昨年の冬から稲作の効率化を図る目的で、佐藤さんと取り組んできたのが「疎植」。稲の間隔を数センチ広げて植えることで力強く育ち倒伏しづらい稲となる。実りは多く、通常より少ない苗数で収穫量を維持できる。

 「(苗の間隔が広く)寂しい畑が一気に茂り出した」のは昨年7月。手応えを感じ期待も膨らみつつあった収穫期目前の9月、土砂が佐藤さんをのみ込んだ。6日現在も、佐藤さんのトラクターは土砂に埋まっている。

 伊部さんはそのトラクターの前で語り掛けた。「地震を逆手に取って畑の改良を進めないと。家とおふくろが助かって泣き言は言えないよな」   
(鈴木直人)

(おわり)
(2019年3月7日掲載)