14歳で体感した「世界」 兄弟プロ対決も 那須ブラーゼン・小野寺慶

  ジュニア日本代表として欧州レースや世界選手権に出場を果たしている自転車ロードレース界のホープ小野寺慶(栃木・真岡工業高3年)が今年、那須ブラーゼンでプロキャリアの第一歩を踏み出す。昨季まで宇都宮ブリッツェンの下部育成チーム「ブラウ・ブリッツェン」でJエリートツアーを走っていたが、今季はステップアップして初のJプロツアー(JPT)参戦となる。「目指しているのは世界のトップレーサー。そのためにプロとしての経験を積み、どんどん上に行きたい」と頼もしい。宇都宮ブリッツェンのエーススプリンター小野寺玲は実兄にあたり、地元2チームに分かれての「兄弟プロ対決」も注目を集めそうだ。

 渡辺直明・文 / 荒井修・写真

海外レーサーとの力の差を実感

 小野寺は5歳上の兄・玲の影響で鹿沼市さつきが丘小4年の時に本格的に自転車競技を始めた。6年時にブラウ・ブリッツェンのトライアウトに合格し、憧れの存在だった廣瀬佳正監督(宇都宮ブリッツェンGM)の指導の下でレーサーの資質を開花させる。鹿沼東中3年時の2015年6月、地元・大田原市で開催された「第19回全日本選手権個人タイムトライアル(TT)大会」の男子U17+15の部に出場して初優勝。さらに同年8月には自身初となる海外遠征(ベルギー)に臨み、3日間で四つのステージをこなすレース「ウエスト・フランデレン・サイクリングツアー」のU15で総合優勝を飾ったのだ。

 「全日本TTは2位に40秒の大差を付けての優勝でしたから。これまでの全てのレースで一番嬉しかった瞬間かもしれません」と柔らかな笑顔で話す。しかし、すぐに表情を引き締めると「でも、その直後のベルギー遠征で、全日本チャンピオンといっても世界との差は大きいと痛感させられました」と続けた。ウエスト・フランデレン・サイクリングツアーは、第1ステージ6位で獲得したリーダージャージを守り抜いた形だが、「海外レーサーとは独走力や積極的な動き、レースに懸ける思いが全然違っていて、第2ステージ以降はまるで戦えていませんでした。リーダージャージの結果はともかく、何もできなかった悔しさが残りましたね」と振り返る。

 14歳で体感した「世界」が、レーサーとして目指す方向を決定づけることになった。真岡工業高に進学した後も、「一体何カ国に行ったか分からないくらい」海外遠征を数多く経験。昨年は、国内レースのチャレンジロードレースA-J1とJBCF修善寺ロードレースE1で優勝を飾って存在感を示した一方、海外レースでもジュニアネイションズカップのTrophee Centre Morbihan第1ステージで12位、Tour de DMZの第3ステージで5位に入る奮闘を見せる。さらに、17年に続いて参戦した世界選手権ジュニア個人ロードレースでは51位となり日本勢で唯一完走を果たした。

 「海外レーサーは、人生を懸けて走っています。ですから、ジュニアネイションズカップや世界選手権に臨むときには『自分も戦いに来ているんだ』という意識を常に持ち続けなければなりません。僕はそのことをベルギー遠征で学びました」

兄は「追い越したい存在」

 今季は、那須ブラーゼンのルーキーとしてJPTが主戦場となる。「自分が目指しているのは世界のトップレーサーですから、プロチームの那須ブラーゼンの一員になれたことはその第一歩と思っています」。ブラウ・ブリッツェンを経てブラーゼンでのプロデビューは、兄・玲がたどったのと同じルートだ。その兄は、ブラーゼンからブリッツェンに移籍後、17年のアジア選手権大会U23男子個人タイムトライアルを制してアジア王者に輝くなどメキメキ頭角を現し、トレードマークの「オノデライダーポーズ」とも相まって、実力と人気を兼ね備えたエーススプリンターに成長している。

 小野寺は兄について「追い越したい存在ではありますね。兄弟なのでどうしても比べられることが多く、お兄ちゃんは僕が全日本を取った年からしばらく『小野寺慶の兄』と呼ばれていて悔しかったそうです(笑)。でも、お兄ちゃんがアジアチャンピオンになり、オノデライダーポーズで有名になってからは僕が『小野寺玲の弟』と呼ばれるようになってしまって悔しい思いをしています」と話す。そして今後、JPTなど同じレースで「ブラーゼンの慶」として「ブリッツェンの玲」と激突することに「お兄ちゃんはクリテリウムでよく優勝していますが、僕はどちらかというと上りの多いロードレースで残っていくタイプなので直接対決があり得るかどうかは分かりません。でも、総合的にどちらの方が目立つかということは意識したいですね」と意欲をにじませる。

積極的な走りで結果も出す

 小学生時代からその成長を見守ってきたブリッツェンの廣瀬GMは「恐れを知らず、馬車馬のようにチャレンジしていくところが大きな魅力です。ブラーゼンで与えられる役割を果たしつつ、無限大の伸びしろを存分に生かしてほしい。ブリッツェンの玲との兄弟対決も面白いと思います」。ブラーゼンの岩井航太GM兼監督も「世代を代表する選手であり、海外を視野に入れられる選手。全日本選手権などのU23のカテゴリーでトップ争いをする力があると思います。JPTでは目の前の結果を追い求めるのではなく、どんどん脚を使ってアタックを掛け、きついレースをこなすことで力を付けてほしいですね」と期待する。

 そんなエールに応えるように18歳のルーキーは力強く語る。「皆さんがよく知っている積極的な走りをアピールしつつ、しっかり結果も出せる選手になりたいと思っています。今年中に自分がエースかアシストとしてブラーゼンに勝利をもたらせるように頑張りたいですね」

小野寺慶 おのでら・けい 2000年10月19日生まれ。鹿沼市出身。170㎝、63㎏。ルーラー。鹿沼市さつきが丘小4年の時に自転車競技を始め、6年時にブラウ・ブリッツェンのトライアウトに合格。鹿沼東中3年だった2015年の全日本選手権タイムトライアルU17+U15の部で優勝、ベルギーでの「ウエスト・フランデレン・サイクリングツアー」で15歳以下の総合優勝を飾る。真岡工業高3年の2018年、チャレンジロードレースA―J1、修善寺ロードレースE1で優勝。今季から那須ブラーゼンの一員としてプロ生活をスタートさせる。

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