世界35か国の中堅企業「経営幹部の女性比率」の平均は前回比5ポイント増の29%

3月7日
太陽グラントソントン

・日本の中堅企業の「経営幹部の女性比率」は15%で最下位ながら前回から大きく改善
・日本の中堅企業の半数で経営幹部に女性不在
・世界35カ国の「経営幹部の女性比率」の平均は前回比5ポイント増の29%と上昇傾向

太陽グラントソントンは、2018年11月に実施した非上場企業を中心とする中堅企業経営者の意識調査の結果を公表した。この調査は、グラントソントン加盟主要35カ国が実施する世界同時調査の一環である。

・日本の中堅企業の「経営幹部の女性比率」は15%で最下位ながら前回から大きく改善
・日本の中堅企業の半数で経営幹部に女性不在
・世界35カ国の「経営幹部の女性比率」の平均は前回比5ポイント増の29%と上昇傾向

世界35カ国の中堅企業経営者に、「自社の経営幹部(※1)の女性比率」について尋ねたところ、全調査対象国の平均は29%と前回調査から5%増加し、経営幹部における女性比率が向上していることが分かった。この割合は、2007年以降、20%台前半~半ばを推移してきたが、今回初めて30%目前の水準に上昇した。(全対象国の経営幹部の女性比率の推移はPDFp.5の表5をご参照)

■日本は対象国中最下位ながらも、調査開始以来初めて2ケタに
日本の中堅企業における「経営幹部の女性比率」は15%で、調査対象国中、最下位であった。日本は2004年の調査開始以来、一貫して調査対象国中でもっとも低い割合ではあるものの、前回調査(5%)までは一桁台にとどまってきたのに対し、今回大きく改善した。
対象35カ国の平均値も、前回調査まではほぼ20%台前半で緩やかな改善傾向にあったが、今回は29%(前回比5%増)とやや上昇幅が大きかった。

太陽グラントソントン パートナー 渡邉りつ子(公認会計士)は、次のように述べている。「経営幹部の女性比率の調査国平均は29%と過去3年間で5%上昇したが、いまだ30%に届いていない。女性比率に限らず、一般に少数派の割合が30%を超えると大きな流れが生まれてくると言われており、パラダイムシフトを起こしていくには、継続的かつ積極的な取り組みが必要である」

■ニュージーランド、オーストラリアが大きく躍進し、1位・2位に
■ドイツも上昇傾向を継続し、上位に
国別に見ると 「経営幹部の女性比率」が今回もっとも高かったのはニュージーランドで44%(前回18%)、次にオーストラリアの42%(前回15%)が続き、いずれも前回から大きく改善した。その他、主要国では米国が31% (前回21%)、英国が26% (前回22%)などと向上が見られた。また、ドイツは、2004年の調査開始時から前々回調査の2017年までほぼ一貫して10%台の水準で対象国中では下位であったが、ここ数年で継続的な上昇が見られ、今回は36%であった。

■日本は「経営幹部に女性がいない」中堅企業が唯一半数超え
経営幹部に一人も女性がいない中堅企業は、日本が52%と調査対象国中でもっとも多く、唯一半数を超えている。ただし、日本は2004年の調査開始以来、70%前後を推移してきたのに対し、今回は17ポイント減と明らかな変化が見られた。
この割合は、調査国平均で12ポイント減の13%(前回25%)、G7は13ポイント減の16%(前回29%)、EUは11ポイント減の16%(前回27%)、アジア太平洋地域15%(前回29%)と、世界的に大幅に低下した。

■経営幹部の女性比率改善のための施策:
日本では「柔軟な働き方の実現」が最多
経営幹部中、女性比率を維持もしくは増やすために取っている施策について(複数回答可)聞いたところ、日本では、「柔軟な働き方を可能にする」が23%ともっとも多く、次いで、「発展的な業務に触れる機会を平等に与える」が22%、「採用方法の見直し」が20%であった。一方で、45%の企業が特に対策を取っていないと回答した。

調査国全体では 「発展的な業務に触れる機会を平等に与える」(34%)がもっとも多く、次に、「開放的な企業文化を創る」(31%)、「柔軟な働き方を可能にする」(29%)が続いた。

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経営幹部定義(※1)本質問の経営幹部には、以下が含まれます。最高経営責任者(CEO)/代表取締役社長・会長・その他会社代表者、最高業務責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)/財務担当取締役、最高情報責任者(CIO)、取締役人事部長、最高マーケティング責任者、取締役経営企画部長、財務部長、経理部長、取締役営業部長、パートナー、共同出資者、共同経営者等。

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「世界35カ国 中堅企業の経営幹部における女性比率」 コメント
矢島洋子|三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 主席研究員

今回の調査では、日本の経営幹部層の女性割合は、この1年で増加しており、経営幹部層に女性がいない企業の割合も減少しているが、他の調査対象国も同様に女性の躍進がみられることから、相対的に、日本の順位は向上しないという実態が浮かび上がった。日本が緩やかに改善をしても、他国の改善スピードに追い付かないという傾向は、世界経済フォーラムが毎年公表する「世界ジェンダー・ギャップ指数」でもみられる。(注1)

日本では、2016年4月に女性活躍推進法が施行され、301人以上の労働者を雇用する企業は、自社の女性活躍を推進するための行動計画を策定している。計画では、自社の女性活躍に関する課題を分析し、課題に基づく目標を設定し、具体的な取組み内容を定め、公表することとなっている。多くの企業は、管理職女性の増加に関する目標を設定し、数年のうちに管理職を増やすための登用策を設定している。当社(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)が厚生労働省の委託で実施した調査では、短期的に管理職割合を増やしている企業の特徴としては、推進体制の整備や目標設定を行っていることがあげられるが、管理職比率が20%を上回る企業の特徴は、「評価における時間当たり生産性を重視している」、 「昇格決定において年功を重視していない」、 「月あたり残業時間が60時間を超えている社員が少ない」などがあげられる。(注2)

今回の調査で、日本企業は「柔軟な働き方」の導入に多く取り組んでいるというが、実態としては、子育て社員のみを対象とした短時間勤務制度等を指している企業も少なくない。問題は、短時間勤務等の柔軟な働き方をしても、時間当たり生産性で公正に評価がなされるか、中長期的なキャリア形成(昇格を含む)の見込みが立つか、周囲の社員も長時間働いていないか、である。

女性活躍推進法は、10年間の時限立法ではあるが、日本の経営幹部層の女性割合平均が30%に到達にするには、まだかなりの年月を要するであろう。中長期的な視野に立った取組みを、飽くことなく進めることが求められる。また、女性活躍推進法に基づく自主行動計画策定が義務付けられる企業の対象は、従業員数「101人以上」に拡大すると目される。中小企業は、大企業に比べ、柔軟な働き方を提供しやすいというメリットを有しているが、能力発揮のための育成施策やマネジメントの強化策等は実施しにくい面もある。今後は、中小企業も、女性の就業継続のための柔軟な働き方提供から、女性の活躍支援へと課題をシフトさせ、取り組む必要がある。

(注)
1.直近の2018年では、前年から多少順位を上げている
2.三菱UFJリサーチ&コンサルティング「女性活躍推進に関するアンケート調査(企業調査)」厚生労働省委託調査 2016年

矢島 洋子(やじま ようこ)
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三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
執行役員 主席研究員
政策研究事業本部 東京本部副本部長 兼 共生社会部長
近年は、特に、「ダイバーシティを推進する働き方改革のあり方」、「職場における短時間勤務の運用方策」や「多様な働き方に前提としたキャリア形成のあり方」、「仕事と介護の両立支援」に着目した調査研究・コンサルティングに従事。

■専門分野: 少子高齢化社会対策、ワーク・ライフ・バランス、女性活躍推進

■経歴
学歴:慶應大学法学部卒
職歴:内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官(2004年4月~2007年3月)
大学講師など:中央大学大学院戦略経営研究科客員教授(2010年4月~)

■パブリシティなど
女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室
http://www.murc.jp/corporate/virtual/diversity
「企業におけるダイバーシティ推進」(季刊 政策・経営研究 2017Vol.4)
http://www.murc.jp/thinktank/rc/quarterly/quarterly_detail/201704_01
内閣府広報誌「共同参画」2017年度 女性活躍の視点からみた企業のあり方
http://www.murc.jp/corporate/virtual/diversity/theme_02

以上