全体重をかけているか? 番組作りの原点を再発見! 「全国制作者フォーラム2019」で新たなテレビを探究!

全体重をかけているか? 番組作りの原点を再発見! 「全国制作者フォーラム2019」で新たなテレビを探究!

放送文化基金が中心となって毎年行われている「制作者フォーラム」は、NHKや民放、さらには系列の枠を越えて制作者同士が自由な意見交換をする場として貴重なイベントです。地区ごとにミニ番組のコンテストが行われ、それぞれの地区で評価の高かった作品が東京で行われる「全国制作者フォーラム」に集います。都内で開催された「全国制作者フォーラム2019」に筆者も参加しました。ゲストに日本テレビラボ・土屋敏男シニアプロデューサー、NHK報道局の中村直文チーフ・プロデューサー、メ~テレ報道局の依田恵美子記者という制作現場で活躍する各年代の第一人者を迎え、メディア研究を専門とする丹羽美之氏(東京大学 准教授)がコーディネート役を務めました。

第一部では、同フォーラム最多となる5地区(下記フォーラム一覧参照)から寄せられた15本の作品が上映され、それらを手掛けた制作者とゲストがそれぞれコメント、さらに会場の参加者からも活発な意見が飛び交いました。今回は4K8K時代の到来を象徴するかのように、カメラマンが自らレポートした作品も多く、フレーミングやピントの合わせ方などカメラマンならではこだわりの映像に度々引き寄せられました。テーマや被写体の魅力はもちろんのこと、ナレーションや音楽などとともに、あらためてテレビにおける映像の力を再確認しました。

九州・沖縄地区の代表、RKB毎日放送 報道制作局の両角竜太郎カメラマンは、所属する映像部で3年前から毎年共通のテーマに沿って1人1本のカメラマンがリポートしていることを紹介。1年目からベテランまでが競い合うとともに、BGMの入れ方から撮影の機材についてなど、カメラマン同士で議論を重ねてきたことを明かしました。「ならではの映像を作るというプレッシャーはありますが、いい刺激になっていて部内のレベルが上がったという実感があります。ここにいる皆さんも、ぜひ持ち帰ってカメラマンに勧めてください」と呼びかけました。そのエピソードに、丹羽氏は「とても共感します。今のテレビの制作者に欠けていることは、番組を見て顔を突き合わせて議論するということだと思います」と、あらためてそういう場として、この「制作者フォーラム」が存在する意義を強調しました。

第二部のトークセッションの冒頭、土屋氏が「(各制作者の)全体重をかけている感じのものがあってうれしかった」と口火を切りました。「自分も初めはワイドショーの短いコーナーを作ることから始まったのをもう一度思い出させてくれた」と語るとともに、社会に今起こっている現実や問題を伝えられるテレビの仕事が「全体重をかけるに値する」ことだと訴えました。

「NHKスペシャル」など大型企画に携わることが多い中村氏も「原点はここにある。ショートリポート、3分とか5分にものすごいエッセンスが詰まっていることを再発見させてもらった」と振り返り、長い番組もその積み重ねだと説きました。記者・ディレクターとして取材現場の最前線に立つ依田氏も「ライバルである皆さんのこだわりを感じ、地方で戦っていくうえでこだわりは大事だと思いました」と、作り手として刺激になったようです。

鑑賞した個々の作品への評価はそれぞれ高いながらも、司会の丹羽氏はこれらの企画の既視感を指摘、「今までに見たことのないものを見せるのがテレビの魅力だとすると、新しいテレビの魅力をどう見つけ出していくのか、新しいテレビの作り方を議論したい」と問題提起し、「テレビはもう全てをやり尽くしたのか?」について、その後、語り合いました。落ちこぼれテレビマンからスタートしたという土屋氏は、「進め!電波少年」などヒット番組が生まれた背景から師と仰ぐ萩本欽一さんを撮ったドキュメンタリー映画「We Love Television?」からの金言まで、テレビ作りの奥義を明かしました。また、ドキュメンタリー激戦区の東海エリアに身を置く依田氏は、各方面から高い評価を受けた「防衛フェリー~民間船と戦争~」ができるまでのプロセスを、さらにNHKスペシャル「未解決事件シリーズ」や「メルトダウン」などを手がけた中村氏も、それらの番組の再現ドラマの手法の細部を余すことなく披露しました。

その後は、会場からの「現場での瞬発力とは?」「若者向けの番組が少ない」「ローカル局は働き方改革にどう向き合えばよいか」などの質問に各ゲストが丁寧に答え、90分のトークセッションはあっという間に終了。引き続き行われた懇親会では、恒例となったゲスト独自の賞が発表されました(下記参照)。西日本放送「どうする子どもの性被害」の中川理恵記者に丹羽美之賞を授けた丹羽氏は「この番組は5分の外側にいろいろなお話があるということが分かったので、ぜひ長尺ものにしてもっと大きく羽ばたく番組になるのではという期待を込めて贈ります」と述べると、中川記者も「力強いお言葉をいただきましたので、ぜひ番組化したいと思います」と力強く決意表明しました。また、丹羽氏は「テレビ的でないテレビを作ることがこれからの皆さんの役目。それがまた新しいテレビを作りだしていく。今あるテレビを越える新しい番組作りに常にチャレンジしてほしい」と最後にエールを送りました。この制作者フォーラムをきっかけに、またそんな新たな番組の誕生につながればと、期待が膨らむ一日となりました。

さて、今回をもって役目を終えることになった本稿。これまで番組制作者ほか数多くの関係者の方のお力添えをいただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。視聴率や予算など、ドキュメンタリーの放送そのものが厳しい環境の中、さらには「テレビ離れ」という言葉が飛び交う昨今、このフォーラムに参加した若手制作者をはじめ大勢の方が、全国各地で地道に取材を続け番組作りに取り組んでいます。報道であれドキュメンタリーであれ、情報番組やエンタメ番組においても丹羽氏の言葉にあったようにそれを探求する姿勢がある限り、テレビの未来はまだまだ明るいと信じます。そうして生まれる魅力ある新たなコンテンツ、そしてその作り手をこれからも陰ながら応援していきたいと思います。

全国制作者フォーラム2019


◇土屋敏男賞
沖縄テレビ「いつでも開いてた 宮城商店」
受賞者/祝三志郎
*「九州放送映像祭&制作者フォーラム」準グランプリ

◇中村直文賞
RKB毎日放送「伝統を『復活』させたい~故郷の思いを甘木絞りに込めて~」
受賞者/両角竜太郎
*「九州放送映像祭&制作者フォーラム」グランプリ

◇依田恵美子賞
ぎふチャン「Station! 奇抜な発想 新たな創作 彫刻家 天野裕夫」
受賞者/杉山実
*「愛知・岐阜・三重制作者フォーラム 」優秀賞

◇丹羽美之賞
西日本放送「どうする子どもの性被害」
受賞者/中川理恵
*「中四国制作者フォーラム」優秀賞

■参加フォーラム一覧
「北日本制作者フォーラム」
「北信越制作者フォーラム」
「中四国制作者フォーラム」
「愛知・岐阜・三重制作者フォーラム」
「九州放送映像祭&制作者フォーラム」
*フォーラムごとにミニ番組規定が設定されています

放送文化基金/制作者フォーラムHP
http://www.hbf.or.jp/forum/

Y・I


株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事制作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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