3・11前に読んでほしいマンガ「コウノドリ」 災害時小児周産期リエゾンってご存知ですか?

災害時のシーンもある「コウノドリ」

災害時のシーンがあります

防災関係のみなさま、このマンガ、読みました?「コウノドリ」(講談社、鈴ノ木ユウ著)の21巻と22巻です。まだでしたら、ぜひ!

紙と電子書籍で累計600万部突破のベストセラー、さらにTBSでドラマ化されて有名な「コウノドリ」ですが、この2つの巻は、「災害医療」前編・後編です。しかも「ドラマにはないエピソード」(マンガの帯より引用)なんです。

災害医療編では、とある場所で起こった震度7の地震とその対応について描かれています。マンガの中で出てくるキーパーソンが、災害時小児周産期リエゾンである三杉マホさん。実は、この三杉マホさんには、モデルがいます。それが今回ご紹介する、この方。

国立病院機構災害医療センター 臨床研究部 厚生労働省DMAT事務局災害時小児周産期リエゾンである小児科医の岬美穂先生です。

          (提供:岬美穂先生)

岬美穂先生→三杉マホ先生
なるほど(笑)!

写真を拡大 「コウノドリ」21巻140Pより引用

この、「災害時小児周産期リエゾン」ってご存知でしょうか?すでに大阪北部地震や西日本豪雨で大活躍されているのです。

写真を拡大 女性防災ネットワーク・東京での岬美穂先生講演資料より引用(以下スライドは同様)

様々な「橋渡し」役

リエゾンとは、フランス語で「つなぎ」「仲介」「橋渡し」を意味します。

災害派遣医療チームのDMAT(Disaster Medical Assistance Teamの頭字語「DMAT」)で活躍される方は救命医の方も多く、赤ちゃんや妊婦さんという特別な配慮が必要な人には、専門医のアドバイスが必要になってきます。その災害医療と専門医療をつないで橋渡しするのが、災害時小児周産期リエゾンの役割です。

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マンガの中でもこんなシーンがありました。妊娠8カ月の妊婦さんが自宅のタンスが倒れて自力脱出したものの、救助後に破水が始まります。みなさんは妊娠8カ月がどんな状況かわかりますか?やはり専門家ではないと状況判断が難しいですよね。当初、緊急搬送先に選ばれたのが、産科のあるS病院。しかし、ここで災害時小児周産期リエゾンが登場して、「搬送停止」を指示します。S病院にはNICU (Neonatal Intensive Care Unit、新生児集中治療室)がなく、27週の赤ちゃんが生まれても助けられない状況だったからです。災害時小児周産期リエゾンの医師がDMATの医師に連絡をとり、妊婦さんの状況を間接的に確認しつつ、NICUのある病院へのヘリ搬送を手配していくシーンです。

ここで、災害時小児周産期リエゾンの存在がなかったら、赤ちゃんの命が危険になっていました。役割の重要性がよくわかるシーンです。また、災害時小児周産期リエゾンは、DMATとの連携だけでなく、行政との調整も重要な役割となっています。

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専門医同士は日常から連携がとれていたりするのですが、いざ被災してみると、行政との連携がうまくいかず混乱するということが各地の災害現場で起きています。そのため、行政との橋渡しを実施するのが災害時小児周産期リエゾンの役割です。

災害時小児周産期リエゾンのお話を深める前に、DMATがなぜできたかということについて簡単に説明します。

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医療界には、「防ぎえた災害死」と言われる言葉があります。医療が適切に介入すれば避けられた可能性がある災害死として、PDDと呼ばれています(preventable disaster death; PDD)。この防ぎえた災害死は、阪神・淡路大震災では、500名以上になると言われています。その反省からDMATが設立されました。

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DMAT、災害派遣医療チームとか聞くと、被災現場にガンガン入っていって、がれきの中から人を救い、その場で聴診器をあてたりして、人命救助するようなドラマのシーンを想像する方も多いのですが、重視されているのは、情報収集体制と搬送体制です。

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医師の方々が、聴診器を首に下げるわけでなく「広域災害救急情報医療システム」にパソコンで入力作業をされているのです。でも、この作業が本当に重要で、これがあって初めて命が救えるのです。ここ「コウノドリ」でも書いていますので読んでみてくださいね!

きっかけは東日本大震災

ところが、この「広域災害救急医療情報システム(EMIS )」では、分娩可能かどうか、小児の集中治療室(PICU)の空き状況など、小児周産期医療に特化した情報を集めることは、できないのです。2011年の東日本大震災では、人命救助にとって大切な時期に、メールや電話での多くの情報が交錯して、支援活動に混乱をきたしたり、被災地への物資搬送に重複が起こっていました。そのため、EMISとは別に、Web上に日本産科婦人科学会大規模災害対策システムを構築することになったのです。

平成29年(2017年)3月31日 厚生労働省医政局地域医療計画課長通知ではこのように書かれています。

疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制についてhttps://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000159904.pdf(7) 災害時小児周産期リエゾン東日本大震災後の研究や検討で、被災地や周辺地域における情報伝達網の遮断や、 小児・周産期医療に精通した災害医療従事者の不足等を原因として、現状の災害医療体制では小児・周産期医療に関して準備不足であることが指摘された。また、小児・周産期医療については平時から独自のネットワークが形成されていることが多く、災害時にも既存のネットワークを活用する必要性が指摘された。そのため、災害医療コーディネーターのサポートとして、小児・周産期医療に特化した調整役である「災害時小児周産期リエゾン」を養成することとした。

災害時小児周産期リエゾンは、このようにして誕生しました。
具体的な任務は以下をご覧ください。

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情報収集として、搬送ニーズがあればDMATにつなぎ、行政の担当者や学会や支援団体につなぎます。次の任務も注目です。

アレルギー食の手配状況を把握し、周知をはかる。

これ、今まで場当たり的に対応されることもあったのですが、心配されていた部分です。災害時小児周産期リエゾンの方が調整に入ることでだいぶ変わりそうです。

その他、保健活動には、「こどもの遊び場を提供」とあります。大人とは違う、こどもの心のケアも重視されています。

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先ほどは大阪北部地震での活躍スライドでしたが、こちらは、西日本豪雨の際の対応です。

避難所での虐待事例にも対応されていますし、情報が届きにくくなってしまう在宅医療児の安否確認など、専門家ならではの細やかな支援をされています。

親子のため保育園を避難場所に

また、岬先生は、ご自身の子育て経験をもとに、乳幼児連れの親子の避難場所として、保育園が使えるようになればと提案もされています。

写真を拡大 「コウノドリ」22巻104Pより引用

もちろん避難所とはされていない保育園も多いですし、被災後すぐに保育所として機能させる必要から避難所にできるのだろうかという問題もあります。そうではあるのですが、園児にとって事故が起こりにくい様に配慮された施設で、安心できるおもちゃや、こどもでも使えるトイレがあるのが保育所です。園児たちにとっては、他では代替できない安心できる施設でもあります。ですので、これについては今後、可能性を調査してみたいと思っています。

ということで、「コウノドリ」のマンガと災害時小児周産期リエゾンの活躍について、いかがでしたでしょうか?防災関係の方で、自分も災害時小児周産期リエゾンをやってみたいという方がいらっしゃるかもしれません。

厚生労働省 災害時小児周産期リエゾン活動要領 平成31年(2019年)2月8日 によると

2 災害時小児周産期リエゾンとは災害時小児周産期リエゾンとは、災害時に、都道府県が小児・周産期医療に係る保健 医療活動の総合調整を適切かつ円滑に行えるよう支援する者であり、災害医療コーディ ネーターをサポートすることを目的として、都道府県により任命された者である。災害時小児周産期リエゾンは、平時から当該都道府県の小児・周産期医療提供体制に 精通しており、養成のための専門的な研修を受け、災害対応を担う関係機関等と連携を 構築している者が望ましい。

とあります。医療関係者であるなど、ちょっとハードルは高いですが該当していたらなることができます!なれなかったとしても、今後も災害時小児周産期リエゾンの活躍がスムーズにいくような体制づくりのお手伝いはできますね!

災害時小児周産期リエゾンの活動応援&行政との連携のお手伝いなど、もっとできることがありそうと思っていますので、みなさまのご協力お願いいたしますね!

また、コウノドリの21巻と22巻も読んでみてくださいね!他にも、エコノミークラス症候群、こどもの避難所での遊び場確保、アレルギー対応、支援者が無理をしてしまうこと、個別にヘリや支援物資を要請したり送付してしまう事より調整が大切であることなどの問題を幅広く扱っています!

(了)

 

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