<再生への視点 統一地方選を前に>・14 佐世保市・北松浦郡区 IR 誘致へ政財界「一枚岩」 近隣住民は“消化不良”

 300人を超える参加者が集まった会場には、熱気が立ち込めていた。昨年10月に佐世保市内で開かれたカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致を推進する決起大会。最後は出席者全員で気勢を上げ、「一枚岩」(地元関係者)と胸を張る、政財界の結束力を見せつけた。
 IRは国内で最大3カ所に整備する。県や市はハウステンボス(HTB)への誘致を目指し、福岡の財界とも連携した活動を視野に入れている。
 県・佐世保市IR推進協議会の有識者会議がまとめた基本構想では、建設投資に伴い約3万8千人の雇用を想定。経済波及効果は約3700億円を見込んでいる。開業後は年間約740万人の入場を試算。約2万2千人の雇用と、約2600億円の経済波及効果を見込んでいる。
 法整備が進んだ昨年の夏以降、佐世保市の経済界を中心に、誘致に向けた動きは加速している。佐世保商工会議所は「長崎マリンIR推進協議会」を発足。地元企業の事業参画の可能性について研究を始めた。
 「IRは、あらゆる業種がうるおうチャンスだ」。協議会の会長を務める辻宏成副会頭は、こう力を込める。誘致が決まれば、運営主体のニーズに対応する準備が必要になる、とみている。
 IRはカジノだけでなく、国際会議場やホテル、ショッピングモールなどを整備。米国では、IRに商品を納入する業者が全米一の規模に飛躍した例もある。辻氏は「どこまで波及効果があるのか、規模が大きすぎて想像ができない。雇用をはじめ、さまざまな受注で地場企業が利益を得るようにしたい」と語る。
 これに対し、候補地のHTB近隣の住民からは困惑する声が聞かれる。江上地区自治協議会長の浦憲治さん(69)は、「自分たちの知らないところで話がどんどん進んでいる」と語る。
 県や市による説明会は、これまでに何度か開かれた。しかし、消化不良に終わることも多い。浦さんは言う。「佐世保がうるおうことは分かる。しかし、立地する地域にどんな影響があるのか、肝心な部分が分からない」
 近くの浦頭地区では大型クルーズ船が入港できるよう港湾整備が進む。多くの人が行き交うようになれば、交通渋滞の懸念もある。
 「もうすぐ、未来がやってくる」-。県・市IR推進協議会が作成したパンフレットの表紙には、施設のイメージとともに、こんな文言が躍っている。「この地域は、どうなっていくのか」。浦さんはパンフレットを手に、ため息をついた。

昨年10月の決起大会で、気勢を上げる関係者=佐世保市内

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