<メディア時評・ドローン規制>取材制限が現実に 基地撮影も大きく制約

©株式会社琉球新報社

 来年度予算が国会を事実上通過した直後の5日、内閣提出予定の法案が閣議決定された。そのいずれもが表現活動にかかわるもので、電気通信事業法と放送法、ドローン規制法の改正案だ。

NHKの変質
 前者は、放送番組のインターネットへの常時同時配信にかかわる、NHKの業務拡大が中身である。当面は、すべてのテレビ番組を、そのままネット上でも見られるようにし、すでに受信料を払っている人は無料で視聴できる仕組みにする予定だ。さらに2020東京五輪中は、テレビで放送しない映像も配信し、しかもすべての人が自由に視聴できることにすると思われる(最近では、サッカーW杯でこの方式を採用した)。
 これらを勘案すると早晩、NHKはネットオリジナルコンテンツを制作し、インターネットの世界に本格参入することになるだろう。その時には、受信料もテレビ受像機単位ではなく全戸徴収に踏み切ることが想定され、さらに言えば、その徴収方法は現行のいわばボランティア方式ではなく、税金同様の法的な納付義務が課される可能性が高い。現在、沖縄の受信料支払率は全国最低で過半に満たないが、その状況が一変するということだ。
 そして何より大きな問題は、公共放送から「公共メディア」に変われば、NHKの役割自身が変質してしまうことだ。これまでは、旧来の放送の枠内で民放とNHKの並立体制を基礎として、より〈公共性〉が強い番組を流すことで、社会全体として豊かな情報環境を形成してきた。それがネットに拡大した場合、何をもって公共性・公益性が強いコンテンツというのか。
 ネット関連事業に経費を振り分けた場合、どの支出を減らすのかも不透明なままだ。たとえば、手間暇がかかる沖縄の現地取材はしません、ということにもなりかねない。今回、政治的な取引として、ネット進出と引き換えに受信料の値下げを実行する予定である。これは、総予算額は少なくとも増額しないとの意思表明でもある。
 そうした中で、NHKがどこに向かうかは、日本の報道機関の社会的役割を占ううえで大きな問題である。単にNHKの番組をネットで見られるというレベルではないことに注意が必要だ。
事故隠しも

 そしてもう一つの「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律等の一部を改正する法律案」は、まさに直接的な報道機関の取材規制を企図したものである。いわゆるドローンの普及に伴い、テロ対策等の検討が政府内で始まったのは4年ほど前で「小型無人機に関する関係府省庁連絡会議」と「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」が15年に設置され、当該課題については内閣官房・警察庁・文部科学・国土交通・防衛省が管轄してきた(www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/)。
 今回の法案は、ラグビーW杯や東京五輪のテロ対策とされているが、今国会提出のイの一番の法案として提出してきたことに、隠された真の目的が透けて見える。法は防衛施設の「周囲おおむね300メートル」の飛行を禁止するとしているが、これが実行されると沖縄県下の米軍取材活動は大きく制約されるどころか、事実上空中取材はほとんどできなくなるだろう。具体的にはたとえば、辺野古新基地の工事状況は空中からの撮影ができなくなり、県が指摘する赤土混入の可能性も、工事の進捗(しんちょく)状況すらわからなくなる可能性大だ。筆者も先日、海上から工事状況を視察したが、護岸に阻まれ、中の埋め立て状況は空中取材に頼るほかないのが現実だからだ。
 また、頻発するヘリ事故などの際、米軍主導で現場の立ち入りが大きく制約されるなか、空中からの取材ができないことでさらなる事故隠しが進むだろう。ほかにも、たとえば高江地区は事実上全面的に取材が不可能になるほか、米軍基地付近で起きた通常の事件・事故の空中取材も、300メートルの壁に阻まれ認められない可能性が高い。
お目こぼし

 政府は04年以降、表現規制を直接盛り込んだ法律を成立させてきている。秘密保護法、共謀罪法、国家安全保障関連法などである。表現とりわけ取材を制約することに無頓着な姿勢が明白であるといってよかろう。
 さらに政府は、「正当な取材目的であれば同意する」旨を報道関係者に提示しているが、これらを制度化することについても現時点で否定的だ。従来であれば、個人情報保護法やストーカー規制法でも、報道機関の取材活動が制約される可能性を除去するため、明文で適用除外規定を設けてきた経緯がある。そうした報道機関の社会的役割に対する配慮は見られないということだ。法案のもとで予定されている取材許可は、あくまで運用上の行政サービスとしてなされるのであって、いわば「お目こぼし」に過ぎない。こうした恣意(しい)性を包含する法律を認めることは、憲法上の市民的権利である表現の自由を大きく制約することになる。
 16年に現行法が制定された際にも、すでに範囲の拡大による取材上の懸念が指摘されていたが、その危惧が現実のものとなったともいえる。法律名も、対象施設名が列挙された現行法から「重要施設の周辺地域の上空」と一般化し、今後も政府の意向で、取材をされたくない事案が浮上するごとに無限定に拡大する恐れがないといえない。本欄前号で扱った官房長官記者会見問題ではさらにその後、「記者は国民の代表ではない」旨の文書の発信が明らかになったり、フリージャーナリストの海外取材を妨害する目的での旅券の強制没収もあった。
 こうした、政府が取材の自由を軽視する姿勢は本件にとどまらないだけに、私たちの知る権利が制約され、政府の情報秘匿状況が進むことを強く危惧する。それだけに、沖縄をはじめとする在日米軍基地へのメディア取材を規制する効果を直接生む、同法改正案は決して認められるものではない。
(山田健太、専修大学教授・言論法)