<再生への視点 統一地方選を前に>・15 西彼杵郡区 高田南土地区画整理 着工30年 膨らむコスト 早期完成へ一括施工

 「少しは入り口が見えてきた。でも工事終了予定の90歳までは楽にできんね」。西彼長与町の仮設住宅で男性(84)がつぶやいた。先祖代々受け継いだ土地は同町で続く高田南土地区画整理事業の区域にある。着工から約30年、男性が仮設住宅に移って10年になる。昨年10月の地元説明会で「工事はあと6年で終了する」と聞いた。「やっと帰れる」というより「何でもっと早く(一括施工を)発想しなかったのか」。そんな思いが先に立った。
 道ノ尾地区の計画的な開発を目的とした同事業は高田郷の一部49.8ヘクタールを対象に、町の委託を受けた県が1987年着工。当初計画では総事業費約112億円、1992年度完了、計画人口4100人(1300戸)だった。だが計画は変更を重ね、工期とコストが徐々に膨らんだ。30年以上が経過して宅地造成が完了したのは全体の6割。山林などを含む約20ヘクタールの造成工事が残っている。
 県はこれまで単年度契約で工事を発注。時間とコストにロスが生じ、長期化の一因になった。悲願である「早期完成」に向け、事業費を負担する町は2020年度以降の残工事については19年度中に契約し、24年度までの一括施工の形にする方針を決定。債務負担行為約55億円を計上した19年度当初予算案を開会中の定例町議会に提出した。事業で生み出される保留地(2ヘクタール)も工事と一体的に、町が売却契約して財源に充てる。総事業費は当初計画から約200億円膨らみ約316億円、事業全体の完了は30年度の見通しだ。
 同事業の対象地域は長与の玄関口に当たり、JR道ノ尾駅1キロ圏内。交通アクセスがよく通勤などに便利な土地柄、町や県には問い合わせも多い。昨年、町内にマイホームを建てた女性(32)も初め「高田南」を希望していたが、「造成がいつになるか分からない」と業者から聞き、選択肢から外した。「ローンの期間や子どもの就学前にと考えると、待たない決断をして正解だった」。だが完成を待つ友人もいるという。
 一括施工でコスト削減が図られてもなお、残工事には今回の約55億円を含め、約60億円かかる見込みだ。昨年12月の定例町議会。吉田慎一町長は、図書館建設など予算規模の大きい事業は「高田南」との財政的な調整が必要として、「工事が完了する24年度ごろが一定のめど」との見解を示した。財源に充てる保留地売却などがスムーズに行かなければ、町のほかの事業にも影響が出かねない。不安定材料をはらんだ町の大型事業の行方を、地権者や町民らも注視している。

山林部分など残る工事を2024年度に完了させる予定の高田南土地区画整理事業=長与町高田郷

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