万引きGメンが語る「悪い女」! 柳原加奈子似の25歳専業主婦が、微笑みながら明かした逮捕歴

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 こんにちは、保安員の澄江です。毎月のお給料が少なすぎて、たいした貯金もしていない私ですが、都内各地の現場では数多くの“貯金”を持っています。我々の世界でいう貯金とは、限りなく被疑者に近い不審者のこと。例えば、商品の棚取り(棚から商品を手に取ること)を見ていない状況で、不自然に周囲を警戒しながら手にある商品をバッグに隠す場面を見ただけだと、犯意が成立させられず、捕まえることはできません。そんな時には、イラつく気持ちを抑えながら、顔やバッグ、隠した商品、服装などを記憶に刻んで見送り、後日につなげるほかなく、そうした人物のデータが貯金となっていくわけです。

 日常の業務で、そのような場面に遭遇することは意外に多くて、タイミングが合わずに何度も見送っている不審者も数多く存在しています。同じ現場に入るほかの職員との情報交換も欠かせず、いただいた情報と特徴の似た人の行動を確認した結果、犯行を現認するケースも少なくありません。万引きする人たちは、同じような行動を繰り返すので、人着(人相や特徴、着衣など)や手口の判明は有力な情報となるのです。先日、20年以上にわたってお世話になっている都内の古臭いショッピングモールで捕らえた女性被疑者も、そんな貯金のうちの1人でした。

(あ! やってる!)

 出勤の挨拶を終えてモール内の食品売場に入った瞬間、先日ご結婚された柳原加奈子さんを不良少女にしたような雰囲気の若い女性が、私の目の前で、妙に慌てたようにカゴの中にある商品を大きなボストンバッグに詰め込み始めました。詰め込んでいる商品は、ステーキ肉やイチゴ、チーズなど、どれも比較的高価なモノばかりで、彼女の示す挙動からすれば商品を盗んでいるに違いない状況といえるでしょう。しかし、犯意成立要件である棚取りは一つも見ていないので、このまま店外に出られても捕捉することはできません。

(あと一つだけ、盗ってくれないかしら……)

 すでに隠した商品の精算状況を確認したい。その一心で、さらなる犯行を期待しましたが、全ての商品を詰め終えた彼女は、私の望みを叶えることなく売場を離れていきました。盗んだと思われる商品を詰めたボストンバッグには、子どもの写真を使って作られたキーホルダーがついており、それを目印にしてあとを追うと、食品売場の脇にあるフードコートに入っていきます。

 しきりに後方を振り返る彼女の視線に注意しながら、彼女のあとに続く形でフードコートに入ると、3~4歳くらいに見える子どもが、悦びに満ちあふれた無邪気な表情で彼女の方に駆け寄ってきました。その子が座っていた席には、父親らしき体格のいい強面の男性も座っており、彼女の後方周囲を見回すようにしています。子どもたちに手を引かれるようにして座席に向かう彼女も、キョロキョロと周囲を警戒していて、お互いが承知の上で犯行に及んでいるような雰囲気です。それから小一時間ほどフードコートに滞在した一家は、売場に戻ることなく駐輪場に向かうと、2台の自転車に分乗して帰っていきました。ただ見送るしかできない自分の不甲斐なさに、地団駄を踏む思いで一杯になったことを覚えています。

それから2カ月ほど経過した、ある日。件のショッピングモールにおける勤務を開始した直後に、以前見送った彼女が一人で入店してくるのが見えました。前回同様、子どもの写真を使って作られたキーホルダーがついたボストンバッグも持ってきているので、おそらくは今日もやる気なのでしょう。不審者の行動を入店から確認できるのは、私にとって、この上なく有利なこと。しかし、鋭い視線で周囲を警戒しながら、広い食品売場を素早く動きまわる彼女の犯行を現認するのは至難で、なかなかうまくいきません。近付けないまま右往左往しているうちに、いくつかの商品を隠されてしまう始末です。なんとかしなければと、変な汗をかきながら必死に追尾していると、不意にエスカレーターに乗り込んだ彼女は、上階にある人気洋服店に入っていきました。

(ハシゴするつもりかしら……)

この洋服店は、同じモール内にあっても、契約先ではありません。でも、使用する休憩室は一緒なので、この店の女性店長さんとは顔見知りの関係で、万引き犯を捕捉することも許されています。

「ちょっと、お邪魔しますね……」

無断で店内に入るのは気まずいので、入口近くで品出しをしていた女性店長に小さく声をかけると、全てを察した様子で微笑んでくれました。それからまもなく、婦人用のパンツとインナー、それにディスプレイされているハンドバッグを自分のボストンバッグに隠した彼女は、支払いを済ませることなく洋服店を出ました。明確な現認がとれたので、遠巻きに彼女を追うと、隣接する100円ショップに入っていきます。

そこで複数の化粧水や詰替用ボトルなどを、次々とボストンバッグに隠した彼女は、レジのない方の出入口を使って店を出ました。警戒しているのか、人気のない階段を使って1階に降りる周到さです。少し距離を置いて、足音を立てないように階段を駆け下りた私は、店の前にある駐輪場で彼女に追いつきました。見覚えのある自転車の子ども席に、ボストンバッグを載せたところで声をかけます。

「お店の者です。そのバッグの中に、お金払ってないものあるでしょう?」
「あ、はい。すみません……」

こちらが拍子抜けするほど、犯行を素直に認めた彼女を事務所に連れて行き、盗んだ商品を出させると、洋服店と100円ショップで現認した商品のほかに、食品売場で盗んだお酒やフルーツ、高級和牛肉など10点(およそ6,000円相当)の被害品が出てきました。3店の被害合計は、計29点、合計1万3,000円ほどになり、ブツ量からすれば逮捕されてもおかしくない状況です。

「たくさん入れちゃったわねえ」
「やっているうちに、贅沢になっちゃったみたいで……」

 身分を確認すると、この店の近くに住む25歳の専業主婦だった彼女は、動揺する様子を見せることもなく、微笑みながら他人事のように話しました。盗んだ商品を買い取るだけのお金は持っているようですが、「お金を払うから許してほしい」というような発言はなく、警察を呼ぶなら呼べといった感じの開き直った態度です。テーブルの上に投げ出された彼女の手を見れば、指にリングの入れ墨が入っており、彼女が持つ犯罪傾向の強さみたいなものも垣間見えました。ぽっちゃりとした体形だからかもしれませんが、とてもふてぶてしい態度で、こうした場面に慣れている様子が伝わってきます。

 化粧水や詰替用ボトルの使途を尋ねると、ネット通販で買った高級化粧水の中身を入れ替えて返品していると、少し自慢気に告白されました。それも犯罪だと思うのですが、悪気ない様子で話しているところを見ると、罪の意識はなさそうです。

「あなた、随分慣れているみたいね。こういうことで警察に行ったこともあるの?」
「慣れているわけじゃないけど、3回くらい捕まったことあります。最後の時には、30万円の罰金も払わされました」
「前に、ご家族と一緒に来ていた時も、同じことしていたでしょう? 旦那さんは、このこと知ってるの?」
「…………」

 これまで饒舌だった彼女でしたが、都合の悪いことはしゃべらないと決めているらしく、固く口を閉ざしました。その後、警察に引き渡された彼女は、幼い子どもがいることを考慮されて基本送致処分となり、夫が身柄を引き受けることで、その日のうちに帰宅を許されました。共犯者と思しき夫が被疑者の身柄を引き受けにくる現実に、世の中には悪い人がたくさんいると、あらためて痛感させられた次第です。

(貯金、使っちゃったな。次回からは、あの旦那に気をつけないと……)

 この店における大きな貯金をおろした私は、大好きなビールを片手に溜飲を下げながら、新たな貯金を始めていたことに気付きました。この仕事に、終わりはないのです。