広島小園、燕・村上…各球団の“新戦力”をスコアラーが“丸裸”にする方法は?

広島・小園海斗【写真:荒川祐史】

松井氏、高橋由氏、阿部らが信頼を寄せる名スコアラー三井康浩氏が分析

 シーズン開幕を間近に控え、オープン戦を戦う各球団で新人選手や1軍定着を目指す若手たちがアピールを続けている。広島の小園海斗内野手のように高卒ながら1軍のオープン戦に帯同している選手やヤクルトの高卒2年目の村上宗隆内野手のようにブレーク寸前の選手もいる。そんな新戦力が相手に出てきた時、チームの命運を握るのがチームスコアラーの分析だ。1987年から約30年近くプロ野球の世界でチームスコアラーを務め、2009年のWBCにも侍ジャパンのチーフスコアラーでチームに帯同した三井康浩氏に開幕までの新戦力分析のプロセスを聞いた。

 昨年まで、巨人のスコアラーや統括ディレクターとして外国人選手の獲得調査などを約30年に渡り、行っていた三井氏。チーフスコアラーにまでなった眼力に、松井秀喜氏や高橋由伸氏、阿部慎之助捕手ら巨人の名打者たちが信頼を寄せていた。

 今年は球団を離れたため、フラットな立場でオープン戦を観戦。目に留まったのはヤクルトの村上だった。

「ヤクルトの村上選手は面白いと思いましたね。レフト方向に大きな二塁打を打った腰の動きが大谷選手(エンゼルス)のようでした。ツイスト打法なので、押しが効いて、あれだけの打球が反対方向に飛びます。内角を攻められた時に、四苦八苦していましたが、腰が開かなくなったら、いい数字を残せると思います」

 ツイスト打法とは、打つ瞬間に投手よりの方向に腰をまわすのではなく、逆方向にひねる動きを入れることを一般的に指す。巨人の阿部ら長距離打者が取り入れている。体の開きを抑えることができ、逆方向にも強い打球を打てるようになる。

 村上だけでなく、広島の小園など、新戦力の動きに目を奪われながらも、三井氏の頭は自然と“攻略法”を導きだそうと考えていた。スコアラーはこの時期、まずはどのような着眼点で選手を“丸裸”にしていくのだろうか。

「今すぐか、それとも夏場くらいか、どれくらいで1軍に上がって来られるのかを判断します。それから能力を分析します」

 チーム内のスコアラー陣で意見を集約し、共通見解を導き出す。まずは打者を見るポイントから。

「打席の中で選手が何を考えているのか。練習のフリーバッティングや試合で見ていれば、大体、分かってきます。技術的な部分だと、軸回転を見ます。大谷選手の場合は両方できるのですが、軸足回転で打つ“一軸”の打者なのか、後ろから前への体重移動した時に前足の股関節を軸として回転する“二軸”の打者なのかを確認します」

 その軸によって、攻め方が変わってくる。

「インサイドをどのようにさばいているか。アウトコースはどうなのか。逆に後ろに残して打つ二軸の打者はメジャーリーグや韓国に多いけれど、インコースが弱い。そのあたりがどうなのかも見ます。それから、打者は自分の“ツボ”を持っています。得意なコースでいい当たりをする時、打球が一体、どこまで飛ぶのかも見ています」

 投手の場合のポイントはどうなのか。

「絶対にストライクが欲しい、という場面で確実にストライクが取れるかどうかを見ます。同じシチュエーションで、その時は直球でストライクを取ったとしたら、今度は変化球でストライクが取れるかどうか。勝負できる球がどれだけあるかで1軍かまだそこまでのレベルではないかを見ています。ボールのキレとかはまだキャンプ中では出てきません。でも、捕手が構えたところにどれくらい投げられるか、制球力はその時にも表れます。ストライクが10球中、7球以上でないと上では通用しません。5球ではファームの選手と見ています」

新戦力を攻略できるかどうかは「スコアラーの責任」 オープン戦では監督、首脳陣に配球を直訴することも

 試合以外にも着目しているのは、キャッチボール。これはプロの選手だけでなく、野球をやっているすべてのカテゴリーに当てはまるのではないだろうか。

「キャッチボールがいい加減か、しっかりと軸足に体重を乗せて投げているかどうかを見るのも重要なポイントです。見る人が見れば、球団内でその教育がされているか、されていないかもわかります。自分のメカニックを把握して、その日の状態を見る。何がいいのか、悪いのかを探ります。例えば、肩の可動域が狭いと感じたら、対処方法を考えて、修正する。投手は調子が悪くても、良い時同じような球がいかないといけませんからね」

 キャンプ、オープン戦と進めば、ペナントレースの準備に忙しくなる。シーズンで打者の攻略をするためにデータをあえて取りに行くことも考え,首脳陣や投手本人にお願いする。

「『○○という打者に直球をインコースに投げてくれないかな?』とか『緩い球を入れながら、インコースをついてくれない』とか『1ストライクを取ったら、フォークを投げてほしい。それを見逃したら、手を出すまで投げてほしい』とその打者が何球目にバットを出すか傾向を知りたいので、お願いしにいきます。その相手が2軍の投手ではそこまでコントロールが完璧ではないですし、アピールしないといけない若手が打たれてはかわいそうなので、経験のある投手にお願いすることにはなるのですが……。投手コーチに言って、監督にお願いして、OKならば実行します」

 毎回、毎回、受け入れてもらえるとは限らないが、最終的には自分たちの成績に関わってくることにもなるため、受け入れてもらってきた。

 シーズンが始まってしまえば、相手が新人、新戦力だろうが関係ない。初めからチーム全体で新人を攻略にかかる。今後、やっかいな相手にしたくはない。

「攻略できるかどうかは、スコアラーにかかっていると思っています。投手だったら、相手の1打席目で打たれてしまった場合、打者だったら、その投手から初回に点を取ることができなかった場合は絶対にスコアラーの責任だと思っています。スコアラーは選手が知らないことを調べるためにずっと相手球団を追いかけています。『俺の方が知っているから、信じてくれ』と納得してもらう。その選手が積極的か、消極的か、それくらい分類はしてあげないと投手がかわいそうです。『ボールを見てくる打者だ』と伝えたのに、“カーン”と積極的のボールをスタンド持っていかれて『違うじゃないか!』と言われてしまってはいけませんから」

 選手だけでなく、スコアラーも朝から晩までデータと向き合っている。選手と同じくらい、試合の勝敗に一喜一憂し、大きな責任を背負うポジションでもある。

三井康浩(みつい・やすひろ)1961年1月19日、島根県出身。出雲西高から78年ドラフト外で巨人に入団。85年に引退。86年に巨人2軍サブマネジャーを務め、87年にスコアラーに転身。02年にチーフスコアラー。08年から査定を担当。その後、統括ディレクターなどで編成、スカウティングや外国人獲得なども行った。2009年にはWBC日本代表のチーフスコアラーも務めた。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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