日本にもようやく春(液体ミルク)がきた  災害のたびに乳児は泣きわめいていました

日本初の液体ミルク!グリコが発売です

あれは2004年のことです。親戚から「子どもが生まれそうなので早急にニューヨークに来てくれないか。約1カ月間滞在して生まれたての乳児の世話をしてほしい」との依頼を受けました。昼間は出歩いたりしても自由で、夜間の子守りだけお願いしたいというのだ。私は二つ返事で引き受けました。ニューヨークを探訪する絶好のチャンスだ!

この仕事は思いのほか、楽ちんでした。なんと「液体ミルク」が用意されていたのです。泣きだしたらダンボール製の箱からミルクを取り出します。ふたを取ると乳首がついているのです。それを装着して飲ませます。そう110ミリリットルぐらいです。温めたりしません。使い捨てでした。そのうち、この子はアレルギー体質だとわかり、大豆で作ったミルクに取り換えてもらう交渉をするとOKでした。牛乳と豆乳と2種類あり、選択できました。ちなみに、液体ミルクで育ったニューヨークっ子は今、都内の私学の中3だそうです。あれから14年がたちました。

液体ミルクで育った子です!かなり昔の写真ですが、かわいいですね!

写真AC ミルクを嫌がる赤ちゃん

熱湯消毒し、振りながら溶き、人肌にさまし、飲ませる

ようやく日本にも液体ミルクが出現しました。わたしは心の底から拍手を送りたいです。あー、日本にもやっと春が来たと。

というのも、私は共働きをしながら2人の子育てをしました。生まれたての子は、昼夜を問わずミルクをせがみます。まさに子育ては昼夜なしの仕事です。翌日学会発表というのに、子どもが一晩中泣きわめいて、こちらが泣きたいぐらいの地獄でした。

地獄の原因の中で最たるものはやはり授乳です。もちろん、母乳が赤ちゃんにとって最良の栄養であることは知っています。母乳には成長に必要な栄養素がバランスよく含まれ、赤ちゃんの体に負担をかけません。さらに、授乳によるスキンシップで赤ちゃんとの絆を深めます。それでも、母乳を赤ちゃんにあげられないこともあるのです。上記のように勤務があると母乳を続けることは難しいです。子どもを連れて勤務はできないからです。

さて授乳ですが、夜中急に泣き出すので哺乳瓶を熱湯消毒し、粉ミルクを計り入れ、振りながら溶き、人肌にさまし、飲ませる。子どもが途中で飲むのを止めたら、じっと待ち、もし催促したら温め直して続きを飲ませる。延々と時間のかかる仕事でした。翌朝は気力も失せ疲れてヘトヘト。働く女性が子育てをするのは命がけです。それ以外にも、ママが体調不良の時はやはり赤ちゃんに母乳をあげることは困難です。

 

避難所におけるミルク問題

やっと日本にも液体ミルクの製造が認可されました。遅すぎませんか? 災害のたびに避難所ではミルクをもらえない乳児が泣きわめいていました。

どんな災害が起こっていたか振り返ってみましょう。2000年代…有珠山噴火、三宅島噴火、鳥取県西部地震、新潟県中越地震、新潟県中越沖地震など。2010年代…東日本大震災、広島土砂災害、熊本地震、九州北部豪雨、西日本豪雨、北海道胆振東部地震など。ライフラインが停止し水も熱もなく、粉ミルクを溶かすことができない。乳児を待たせると泣くので避難所では迷惑がられ、のけ者にされがちでした。外に連れ出し「乳児にお乳を我慢させる」という最悪の事態が多く起こりました。このように災害の多いわが国で、液体ミルクの必要性が高いにもかかわらず、なぜこれほどまで遅れ、幼児が無視され粗末にされ続けてきたのか不思議でなりません。

女性が社会進出するにつれて増える子育てシーンでの困りごとや災害時に起こりがちな困りごとが多いにも関わらず、これらは今まで放置されたままでした。それらのことが今日の少子化の闇に拍車をかける一因になっているとは言えないでしょうか?

液体ミルクを使いたいトップは災害時

株式会社ベビーカレンダーが育児中のママ699人に「液体ミルク」について意識調査をした複数回答の結果です(2018年12月1日~4日)。「液体ミルクを使いたい理由」を聞いたところ、トップは災害時58.8%、2位は「お出かけする時」48.4%でした。実際に育児をしている母親が災害時の必要性を強く認識しているのです。

こうしたこともあり、政府はようやく乳児用の液体ミルクを災害時に必要な物資と位置づける方針を固めたようです。遅きに失した感はありますが…。

さて、話をもとに戻しましょう。

液体ミルクを使った私の感想です。( )は発売元グリコから入手した資料と聞き取り調査した内容です。

■温め不要

■煮沸不要(ミルク、容器、ストローもすべて完全殺菌済みなので)

■常温で保存可能(厚生労働省の運用上の注意では、常温とは外気温を越えない温度のことをいう。さらに、日本工業規格では、常温を5~35℃と定めている。順天堂大学の清水敏明教授によると常温で保存し、そのまま授乳しても赤ちゃんの消化機能に問題ないとのこと)

■飲みきりサイズでちょうどよい当時私が使っていたものは110ミリリットル(今回のグリコ製品は125ミリリットル)

■持ち運び便利(かさばらない離乳食サイズ・紙パック包装の軽さ・常温保管など)

■泣いたらすぐあげられる

■お買いもののときにも気軽に外出できる

■家族や他の人でも授乳が可能なので頼みやすい

■完全殺菌されているので衛生面で安心(超高温短時間殺菌製法で、おいしさ、色、香りを失わない)

■子守り役はてんてこ舞いしないため、疲れないので助かる

■(グリコの追加コメント:衛生上、飲み残しは飲まさないようにする)

■(冷たさが気になる場合→室温20℃前後にするとよい。哺乳瓶に移した後、湯煎にするとよい。電子レンジの場合は別の容器に移してから温度に気をつけながら温めるとよい。)

■(今回発売されるものは粉ミルクと同様の成分で、新生児から飲ませることができる)

さらに私が感じたのは、これだったら子供を産んでも育てられるかな、という安心感がわく。さらに結婚を考えてもいいかな、という希望もわく。とにかく子育ての仕事は重労働。子育てするうえでのマイナス要素を取り除く「引き算の手立て」がいろいろ欲しい。

ところで、過去の災害で救援物資として国外から液体ミルクが贈られてきましたが、せっかくの好意が生かされなかったと聞いています。今後はそうしたこともなくなることでしょう。国や行政はしっかりかじ取りをしてほしいものです。

質問!1回で買う量は?

あっ!「ご質問ですか?」「はい、どうぞ!」

Q.1回にどれだけに買えばいいですか? 

そうですね、1日分(1個110ミリリットル×4回授乳)×3日分=12個がひとつの目安です。そのうえで、母乳をあげることができる頻度を考慮して必要数をはじきだせばいいでしょう。1日4回授乳のうち2回は母乳を授乳する場合は、1日2個×3日分=6個となります。実際にはバラ買いもできますし、12個入り1梱包でも買えます。賞味期間は6カ月ですから、すべてを液体ミルクでまかなうとした場合は、半月分として15梱包ぐらい買っておくと安心です。災害時の備蓄も考えておきましょう。

Q.どこで買えばいいですか?

ネットで買えますし、ドラッグストア、子ども用品店などですね。粉ミルクや離乳食の扱いのあるところで購入できます。

Q.発売は?

消費者庁から表示許可を取得したのは3月5日でした。3月5日16:00~注文受付をスタートしました。3月6日にグリコ通販サイトにて発売。3月11日から全国で順次販売開始しています。

災害はいつでも、どこでも、誰にでも、容赦なく襲いかかります。今日他人ごとだと安心していると、明日は我が身です。油断しないで準備しましょう。

Q.粉ミルクか、それとも液体ミルクかの選択はどのように判断すればいいのでしょうか?

たとえばスーパーでネギを買うとしましょう。束ねたネギを買い、持ち帰って刻むか、それともプラスチック容器入りの刻みネギを買うか。各自が手間、風味、価格、保存性など総合判断して、どちらにするかを選択していることでしょう。これは価値判断ですから個人の自由です。他人がとやかく口出しする問題ではありません。まして国や自治体がとやかくいう問題でもありません。私の場合は液体ミルクを使って育児をしたので、その経験を踏まえ災害時の有用性を述べています。

Q.栄養面、味はどうですか?

実際に飲んでみて、味や色も母乳に限りなく近いと感じました。美酒よりおいしかった、とつけくわえておきましょう。

今回は、個人を中心にミルクの備蓄について考えてみました。企業や行政、被災者が集まる避難所などにおいても考えてもらいたい問題です。

 

(了)

 

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