歴代1位は杉内俊哉 他の投手記録と10傑の顔ぶれが大きく変わる奪三振率

2013年のWBCなどでも活躍した巨人・杉内俊哉現ファーム投手コーチ【写真:Getty Images】

奪三振に関する基本的な指標「K/9」、10傑にも現役投手が並ぶ

 奪三振に関する基本的な指標に「K/9」がある。奪三振率ともいわれる。数式は、奪三振数÷投球回数×9。投手が9回を投げれば、いくつ三振を奪うかという指標だ。

 K9は、MLBでは投手の能力を知る上で、非常に重要な指標とされる。投手にとって三振は、振り逃げ以外では走者を許すことがない、きわめて安全なリザルトだからだ。この数値が「9.0」を上回ると、1イニングに1個以上三振を奪っていることになり、パワーピッチャーとみなすことができる。

○NPB歴代K/9の10傑 1500投球回以上 所属があるのは現役 ()は実働期間。

1 杉内俊哉 9.28/2156奪三振/2091回1/3(2002-2018)
2 石井一久 8.84/2115奪三振/2153回1/3(1992-2013)
3 江夏豊 8.41/2987奪三振/3196回(1967-1984)
4 メッセンジャー(神) 8.37/1420奪三振/1527回1/3(2010-2018)
5 和田毅(ソ) 8.27/1520奪三振/1654回2/3(2003-2017)
6 上原浩治(巨) 7.96/1400奪三振/1583回2/3(1999-2018)
7 能見篤史(神) 7.841/1436奪三振/1648回1/3(2005-2018)
8 中田賢一(ソ) 7.839/1337奪三振/1535回(2005-2018)
9 川口和久 7.81/2092奪三振/2410回(1981-1998)
10 金子弌大(日) 7.72/1566奪三振/1825回2/3(2006-2018)

 投手記録の多くの部門で、昭和の大投手が上位に来るが、奪三振率10傑は、顔ぶれが大きく変わっている。昨年まで現役だった杉内が歴代1位、通算でのK/9は、ただ一人「9」を超えている。2位も2013年まで現役だった石井だ。昭和の時代の江夏を挟んで4位の阪神メッセンジャーから8位のソフトバンク中田まで、現役投手が並ぶ。

 昭和の時代と比べて、平成のプロ野球はフォークやチェンジアップ、スライダーなど空振りを奪うことができる変化球が増えた。投手の球種も増えて、三振を奪う手段が増えた。奪三振率は昭和時代よりも高くなった。

 登板数が少なくなったことで、勝利、完投、イニング数など積み上げ型の数字は昭和より平成のほうが見劣りするが、奪三振率では平成が大きく上回っている。

 一般的に奪三振は、左投手のほうが多くなるとされる。このランキングでも杉内、石井、江夏と上位3人は左腕が続く。4位の阪神、メッセンジャーはNPB史上最も奪三振率が高い右腕ということになる。

昭和時代の10傑、メジャーで活躍する選手のK/9は…

 昭和と平成の「野球の違い」を見るために、昭和時代(1936~1988)限定のK9の10傑も出してみた。

○昭和時代 K/9、10傑 1500投球回以上

1 江夏豊 8.41/2987奪三振/3196回(1967-1984)
2 金田正一 7.31/4490奪三振/5526回2/3(1950-1969)
3 権藤正利 6.96/1943奪三振/2513回(1953-1973)
4 小野正一 6.94/2244奪三振/2909回(1956-1971)
5 村山実 6.70/2271奪三振/3050回1/3(1959-1972)
6 若生忠男 6.65/1459奪三振/1973回1/3(1955-1970)
7 江川卓 6.62/1366奪三振/1857回1/3(1979-1987)
8 杉浦忠 6.55/1756奪三振/2413回1/3(1958-1970)
9 高橋一三 6.47/1997奪三振/2778回(1965-1983)
10 稲尾和久 6.437/2574奪三振/3599回(1956-1969)

 江夏豊は1968年にNPB記録であるシーズン401奪三振をマークしている。昭和の投手の中では、三振を奪う能力は傑出していたのだ。2位の金田は通算の奪三振数では史上1位だが、K/9は7台。それ以下の投手は6台になる。

○MLBで活躍するNPB出身投手のNPB時代のK9

ダルビッシュ有(カブス) 8.87/1250奪三振1268回1/3(2005-2011)
田中将大(ヤンキース) 8.47/1238奪三振1315回(2007-2013)
前田健太(ドジャース) 7.35/1233奪三振1509回2/3(2008-2015)
大谷翔平(エンゼルス) 10.34/624奪三振543回(2013-2017)
菊池雄星(マリナーズ) 8.04/903奪三振1010回2/3(2011-2018)

 いずれも極めて高いK/9を記録している。日本人MLB投手のパイオニア、野茂英雄のNPB時代のK/9は10.31(1204奪三振/1051回1/3)だった。MLBで通用する日本人投手は、K/9が高いということは言えよう。

○1500投球回に達していない主要な現役投手のK/9

菅野智之(巨) 7.98/963奪三振1086回1/3(2013-2018)
則本昂大(楽) 9.40/1178奪三振1128回1/3(2013-2018)
西勇輝(神) 6.94/940奪三振1219回1/3(2009-2018)
山口俊(巨) 8.55/865奪三振910回1/3(2006-2018)

 5年連続奪三振王の楽天則本は、K/9も群を抜いている。今季は右肘の手術で出遅れることとなったのが気がかりだ。

 K/9は、投球回数が多い先発投手のデータが紹介されることが多いが、阪神の藤川球児は、11.66(1122奪三振/866回)という極めて高い数値を記録している。彼も球史に残る奪三振王と言えるだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)

© 株式会社Creative2