『サンセット』 迷宮に迷い込んだような映像体験

(C)Laokoon Filmgroup☆(二分ダーシ) Playtime Production 2018

 前作『サウルの息子』が、アカデミー外国語映画賞やカンヌ映画祭のグランプリなどに輝いたハンガリーの異才ネメシュ・ラースローの長編第2作。今度もベネチア映画祭の国際批評家連盟賞などを受賞している。第1次大戦前夜の1913年、栄華を極めるオーストリア=ハンガリー帝国の都市ブダペストにある高級帽子店を舞台に、働きたいと言って店を訪れた一人の女性の視点から、当時の不安定な社会情勢を浮き彫りにする。

 カメラが主人公の背後から常に寄り添うスタイルは前作と同じだが、印象は大きく異なる。主人公の置かれた状況や目的がはっきりしていた前作に対し、今回は彼女自身がまるで記憶喪失かのようにつかみどころがない。その上、時代背景も日本人には分かりづらく、語り口は“一人称”にもかかわらず、彼女の思いや感情を共有できない。だが、それがかえってサスペンスを生み、キツネにつままれたようなラストも相まって、あたかも迷宮に迷い込んだかのような奇妙な映像体験が味わえるのだ。

 何より、臨場感を優先させた前作の長回しとは一線を画すカメラワークが素晴らしい。主人公に密着しているのに構図はほとんど乱れず、それでいて奥行きも運動性も人物の出入りも厳密にコントロールされている。光も然り。タイトルは比喩的な意味だけでなく、美しい夕陽を捉えた映画であることも示しているのだ。そんな映像の強度も本作のラビリンスに大きく貢献している。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:ネメシュ・ラースロー

出演:ユリ・ヤカブ、ヴラド・イヴァノフ

3月15日(金)から全国順次公開

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