『まく子』 物語の説得力+圧倒的な映画のたたずまい

(C)2019「まく子」製作委員会/西加奈子(福音館書店)

 直木賞作家・西加奈子の児童小説が原作。「まく子」は人の名前ではなく、“撒(蒔)く”子。だから子供たちが、比喩的な意味も含めていろいろなものをまく。物がヒラヒラと舞い落ちる様子は、とても映画的だ。監督は、『過ぐる日のやまねこ』の鶴岡慧子。

 舞台は、山あいの温泉街。主人公は小学5年生の旅館の息子で、女好きの父親に反発しつつ自分の体の変化に悩み始めた彼の前に、謎めいた転校生の美少女が現れる…。大人が汚く見え、でも自分もそこへ足を踏み入れつつあることを自覚し始めた矢先、周りの世界を一変させるような異性と出会う。思春期とはどういうものかをファンタジーに包んで描いた物語は、説得力十分。だが、それとは別に本作には、映画としての圧倒的なたたずまいがある。

 下駄箱の横移動から主人公が何かに気づいて振り返る冒頭、相米慎二の映画のように突然降りだした雨から回想シーンに入って銭湯へと“水”でつなぐ編集、反復される見上げる行為、そして、枯れ葉や花びらなどが舞い落ちる運動性…。印象的なセリフも登場するが、セリフに頼ることなく、見上げる、振り返る、座る、走るといった子供たちの動作の積み重ねによって物語を推進させていく、あるいは子供たちの魅力を活写していく鶴岡監督の演出ぶりにうならされる。間違いなく、日本映画の未来を担っていく才能の一人だろう。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:鶴岡慧子

出演:山☆(崎の大が立の下の横棒なし)光、新音、須藤理彩、草なぎ剛

3月15日(金)から全国公開

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