あれから8年

 東北各地では風雨が吹き荒れていた。そんな中、ぬれるのもいとわず、慰霊碑に花を手向け、海に向かって手を合わせる人々が、テレビ画面に映し出されていた▲東日本大震災からきのうで8年。被災者が大切な人を失った悲しみや震災後に直面した生活の厳しさを連想させるような、冷たそうな雨だった▲あの日突然、無数の人々が平穏な暮らしを断ち切られ、家族や住まいや仕事を失った。生きていくため、歯を食いしばって一から新しい生活を築き直した人も多いはずだ▲被災地の現状を報じるテレビ画面には、しばしば立派な道路や建物などが映し出される。復興事業が進展すれば震災の爪痕は次第に見えなくなっていくのだろう。一方、福島第1原発事故の地元では、復興の見通しが立たず住民の帰還も進まない▲津波と原発事故でいまだ約5万2千人が避難を続けている。あの日からずっと冷たい雨にさらされているような心境だろう。例え生活を再建できた人であっても、心の底には傷痕が残っているに違いない▲政府主催の追悼式で安倍晋三首相は「被災者の生活再建を支援し復興を加速していく」と述べた。昨年と似たり寄ったりの式辞だった、とは言うまい。取り組みの継続によって被災者の暮らしに一刻も早く明るい日が差すことを誰もが望んでいる。(泉)

© 株式会社長崎新聞社