国土交通省OBと考える「防災と治水」 〜学習会「暮らしと川」のリポート〜

自然災害は常に「想定外」

「みなさん、ちょっと考えてみてください。自然災害は、想定したタイミングで、想定した場所で、想定した範囲内で起こるものでしょうか。そんなことはないですよね。いつどこで、どのような規模で発生するかわからない。常に想定外のことが起こりうるのだという、自然に対する謙虚な姿勢を忘れないでほしいのです」

そう話すのは、元国土交通省官僚の宮本博司さん(66)だ。2月10日、岡山市内で開かれた学習会「暮らしと川」で、河川行政に長年携わってきた自身の経験をベースに、治水や防災について講演した。

宮本博司さん(撮影:南條節夫)

堤防の「越水破壊」を防ぐために

宮本さんによると、河川行政とはまず、災害の想定をし、河川整備計画を立てる順番で行われてきた。たとえば、「100年に一度の豪雨」を想定し、その雨量からダムや遊水池などで調節される水量を差し引いたあとの「計画高水位」を算出する。計画高水位から、堤防や護岸が設計する。しかしながら、想定を超える災害が起こることがある。その後「想定外だった」として、再度新たな想定をする。この繰り返しで進められてきたという。

「人の命は取り返しがつきません。いつ、どのような規模で起こるかわからない洪水から、住民の命を守る。それが治水事業の目的だと、私は思っています。」

洪水で最も恐ろしいのは、「堤防決壊」だ。高い堤防が耐えきれずに決壊した場合、大量の土砂・流木などを含んだ濁流が一気に町を襲う。破堤原因の7〜8割は、堤防の上を水が乗りこえ、その水流が堤防の外側を削ることで起こる「越水破壊」だという。国交省中国地方整備局の調査委員会の報告でも、平成30年7月豪雨による小田川やその支流の堤防決壊は、多くが越水によるものと指摘されている(※1)。

「だから堤防の強化は急務です。しかしながら、洪水を川に押し込めるという方法では、災害は防ぎきれません。『防ぐ』のではなく、『凌(しの)ぐ』という発想の転換が大切です」と宮本さん。

川の中だけで対策するのではなく、あらかじめ堤防を低くしたり、不連続に堤防を造るなどしてあえて越流や流出させて洪水のエネルギーを分散させる、「野越(のごし)」や「霞堤(かすみてい)」といった昔ながらの「凌ぐ知恵」と、それに沿った土地利用計画を考えることで、減災につながるという。

では、現在川沿いに住んでいる住民にとって、今後どのような対策や心構えが必要だろうか。宮本さんに改めて伺った。

「大きな洪水がきた時、堤防が壊れたら、想像できない勢いで水が押し寄せてきます。そのことを思い、その前に何をすべきか、日頃から決めておくことが大切です。家や家財も大事ですが、最優先すべきは人命です。優先順位を見誤らないでください。自分の命は自分で守るしかありません。」

「野越」と「霞堤」(宮本博司さん作成)

子育てしながら「できること」

この学習会を企画したのは、岡山市在住の田中芙実枝さん(36)。田中さんは現在、3歳の男の子の、子育て真っ最中だ。

「今まで、岡山は『晴れの国』だと楽観的に考えていた私にとって、平成30年7月豪雨はとてもショックでした。もっと日々の暮らしのなかで、川や自然に触れていけば、住民として声を上げることもできるかもしれない。地域のことを自分たちで決めていくために、みんなで学びたいと思いました。」

田中さんは平成30年7月豪雨の時、被災地のボランティアに行きたくても行けなかったことが、ずっと心の中で引っかかっていたという。「子育て中の私にできることは何だろう」と考え、この学習会を開催した。今後も引き続き、世代をこえて「暮らしと川」について考え、語り合う場をもっていきたいと話している。

(※1)http://www.cgr.mlit.go.jp/emergency/2018/pdf/05odagawagiji.pdf

田中芙実枝さん(撮影:黒部麻子)

 

いまできること取材班
文章:黒部麻子
撮影:南條節夫・黒部麻子
編集:松原龍之

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