キャッシュレス決済 銀行の戦略 「本業との結びつき鍵」―識者に聞く③西本聡氏

みずほ銀行の西本聡・デジタルチャネル開発チーム参事役

◎みずほ銀行の西本聡・デジタルチャネル開発チーム参事役

 ―キャッシュレス決済への現状の取り組みは。

 「スマートフォンのiPhone(アイフォーン)で、JR東日本の電子マネー「Suica(スイカ)」にみずほ銀行の口座から直接チャージできる「Mizuho Suica」(みずほスイカ)のサービスを2018年8月から始めた。他の銀行にはなく、みずほ銀行だけの取り組みだ。18年3月からは、JCBと連携して、アンドロイドでデビットのサービスを利用できるようにしてきた。

 大きな特徴としては、アンドロイドは80万台以上、アイフォーンは50万台以上の端末で利用でき、店舗で利用者はスマホを備え付けの端末にかざすだけで、サービスを受けられる。料金の支払いなど、アプリはもちろん、スマホを立ち上げる必要もない。みずほ銀行の口座を持つ人であれば、無料で利用できる。口座への入出金明細が分かるため、家計簿のように使える。すべてスマホでできるのが最大の特徴で、JR、銀行の支店に足を運ぶ必要がない」

 ―始めた狙いは。

 「銀行の戦略として、顧客の利便性向上を第一に、これからは非金利の収入も伸ばしたい。決済の手数料は、加盟店から得られる。さまざまな顧客データを把握できる点も大きい。例えば、位置情報から顧客の行動が分かる。ビッグデータとして活用しビジネスに生かしていきたい。

 金融機関の伝統的なチャンネルには、支店、コールセンター、現金自動預払機(ATM)があるが、それぞれスマホバンキング、チャット、そして、今回のキャッシュレスを活用して、新たなビジネスを展開、変革にチャレンジしたい」

 ―キャッシュレスのメリットは。

 「1企業だけではなく、社会全体でコスト削減が期待できる点が大きい。生産性向上、人手不足への対応、働き方改革にもつながるだろう。

 日本は偽札が少なく、現金自動預払機(ATM)が普及している。犯罪が少ない。こうした事情もあり、これまで少額支払いを中心に現金が多かった。今後はキャッシュレスのメリットを生かしていくことが求められるのではないだろうか」

 ―キャッシュレスは、さまざまな業者が参入している。競争激化にどう対応するか。

 「決済自体の利便性が高くないと、一般の利用者からは選ばれない。従来からの手厚い顧客基盤など当行の強みを発揮することが必要だ。その上で、本業と結びついていないと、競合社が参入した際に、生き残れない。

 例えば、スマホによるスイカのサービスについて、みずほ銀行が展開している商品自体に、優位性があると考えている。例えばJR東日本との連携を生かして、駅の沿線で利用者、加盟店を広げ、取引を拡大していきたい。現状でのキャッシュレスは、50万ダウンロード、利用は100万件を突破している。今後、いかにして預金、融資などの本業と結びつけられるかが鍵を握る。対顧客ビジネスとしては、決済から資産形成へ展開していきたい」=続く

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