フェラーリに挑戦する立場となったメルセデス。虎視眈々と表彰台を狙うレッドブル・ホンダ【今宮純のF1開幕展望】

 2019年シーズンのF1がいよいよ開幕。今年こそメルセデスを打倒すべく新車の準備を進めたフェラーリ。そして今季からホンダとタッグを組むレッドブルの3チームが三つ巴戦となるか。3月15日~17日に迫る開幕戦オーストラリアGPの見どころをF1ジャーナリストの今宮純が解説する。

——————

 変動のシーズンを予感せずにはいられない。開幕戦オーストラリアGPから真新しいパフォーマンスとサプライズが見られるか。

 フェラーリは17年から2連勝中、このオーストラリアGPだけだ。バルセロナテストを順調に進め、周囲から“本命視”されている。マッティア・ビノット新代表率いる体制には、いくつかの変化が感じられる。

セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)

 自らコースサイドに出向きフェラーリの新車SF90とライバル勢のマシンを定点観測、在籍25年の技術者らしい行動だ。現在の10チーム代表者でエンジニアとして長く勤務していた人物は他にはいない。何人もトップリーダーが交代(解雇)された名門にようやくふさわしい“指揮官”が現れた。

 彼はまずセバスチャン・ベッテルをエースにしていく方針を固めた。フカヨミすると新加入シャルル・ルクレールへの外的プレッシャーを軽め、「早く新環境に順応していけばいい」という指導方針か。若者に対抗意識があるのは当然、それにベッテルが過剰反応したら『新コンビ合力』のマイナス要因にもなりかねない。

 2018年、ルクレールはこのアルバートパークのコースに苦しみ、全セッションでチームメイトのマーカス・エリクソン(ザウバー)に劣った。最初のテストを無難にこなした2年生の進化を確認する場が最初の予選となるだろう。

ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 オーストラリアGP2連勝ベッテルに対し、ハミルトンはPP7回の記録を持つ。2014年にパワーユニット時代になってからアルバートパーク・サーキットで5年連続ポールポジションを獲得している得意コースだ。それだけに、もし今年この記録が止められたら、彼自身もチームもシリーズ序盤の戦い方を考えざるをえない。

 テスト2回目にデビューした“アップデート版メルセデスW10”の真価がバルセロナの低中速エリア、セクター3で確認された。高速のセクター1と2はフェラーリSF90に及ばなかったが、このパフォーマンスはアルバートパークでは活かされるだろう。

■強気なレッドブル・ホンダのヘルムート・マルコ

 3年目のボッタス自身はまだハンドリングに満足できない部分があり、高速コーナーでの“リヤナーバス症状”が課題か。総合的には現在ややリードしているフェラーリに対し、メルセデス技術陣がテスト2回目を踏まえてさらなる“本番アップデート”を出してくるか。挑戦者の立場に変わった五冠王者――。

 12年にわたったルノーとの関係を断ち、初めてホンダとワークス体制で“協同作業”に取り組んだテストではやり残したことがある。マックス・フェルスタッペンはC5タイヤ(旧ハイパーソフト)でのアタックをやらず、ピエール・ガスリーはレースシミュレーション中にクラッシュ。最新エアロパーツ実走確認が不充分のまま、7日半でテストを切り上げる事態に。

 しかしチーム側もドライバーもポジティブなコメントを繰り返し、レッドブルのモータースポーツコンサルタントを務めるヘルムート・マルコは強気な『勝利』を口にする。その根拠はなにか。

マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)

 ひとつのヒントは七日半の協同作業において、最も多くのC3タイヤ(旧ソフト)を使用したのは彼らだけ。これはオーストラリアGPに供給されるC2/C3/C4の中間スペック、おそらくこのC3タイヤが決勝レースのメインになると思われる。

 このC3タイヤでフェルスタッペンは最終日に自己ベスト1分17秒709、全21人中の17番手だ。前日、ガスリーのクラッシュによって大破したシャシーに古いエアロパッケージを間に合わせ、スペアが無いギヤボックスで慎重に29周。このマシン状況でも、このタイムには意味がある。もっとも柔らかいC5タイヤを装着したら“換算アップタイム”は1分16秒中間へ。さらに万全なシャシーに最新エアロパッケージと新ギヤボックスなら、推定タイム1分15秒台も可能と読めるからだ……。

■復帰以来、一番よい形でスタートに臨むホンダF1

 2チームのパワーユニット供給に初めて取り組んだホンダは、レッドブルが信頼性確認。トロロッソがパフォーマンス・チェック、その方針にしっかりと対応できた。沈着冷静なホンダF1テクニカルディレクターの田辺豊治氏は多くを語らないが、両チームともそれぞれ2基のパワーユニットを使用。レッドブルは2日目ガスリー事故の影響、トロロッソはトラブルではなく何らかの目的があったようだ。

 パワーユニットの信頼性を実走条件で確認、そしてそのマイレージ内容を分析、PU内部状態を精査。2チーム×4台分のリアルデータをホンダは復帰5年目に初めて集積することができた。これまでで一番いい形でスタートラインへ。

【開幕戦オーストラリアGP、予選・決勝の注目点】
*2019年ピレリはトレッド・ゲージが薄くされ、温まりが遅く走行中の温度も低下。そのハンドリングの影響、セーフティカーランは要注意か。
*タイヤウオーマー設定温度が前輪100度/後輪80度に。早くグリッドに着いた上位マシンの後輪はさらに冷える。毎年荒れる1コーナー、進入時のブレーキングはさらにシビアに?
*フロント・ウイング200CM拡幅化、スタート密集情況での接触リスクが懸念される。
*予選タイヤはC4、レース戦略は次にC3へスイッチ、C2は硬すぎるかも。
*中団チームのなかで、アルバートパークが速いのはハース。2年連続3列目進出中、ピットワークにもう不安は無い?
*ルーキーにとって難度が高いアルバートパークはトリッキーなコース。新人トリオ(アレクサンダー・アルボン、ランド・ノリス、ジョージ・ラッセル)の勝者候補は、トロロッソ・ホンダのアルボンと予想。

アレクサンダー・アルボン(トロロッソ・ホンダ)

© 株式会社三栄