命をつなぐドナーになる 競泳・池江選手の白血病公表で登録増

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 競泳女子の池江璃花子選手が白血病を公表したことで、日本骨髄バンクへのドナー登録が増えている。骨髄移植などの「造血幹細胞移植」は、白血病の重要な治療法の一つ。ただ、実際に登録した後にどんな負担があるか不安を持つ人は多い。ドナーになるとは、どういうことなのか。

 ▽骨髄提供なら全身麻酔/数日入院、痛みは少なく

 「思ったよりも体の負担はなかった」。骨髄移植のドナーを経験した広島市中区の塾講師男性(50)は振り返る。

 骨髄の提供は、骨髄バンクが認定した病院で行われる。入院期間は通常3泊4日だ。ドナーに全身麻酔をした状態で、医師がボールペンの芯ほどの針で、腰の骨から骨髄液を抜き取る。針を刺すのは背中側の左右に計2〜6カ所。針穴は自然にふさがる。男性は頻繁に献血していたこともあり「恐怖感はなかった」という。採取量は患者の体重などを基に決める。

 その後の痛みはどうか。「ほとんど感じず、腰が少し重かったくらいだった」と男性。個人差はあるが、通常は1週間ほどで消え、針の痕も次第に薄れていく。

 骨髄提供までの流れはこうだ。まずはドナー登録。18〜54歳の健康な人で、体重は男性45キロ以上、女性40キロ以上が主な条件だ。患者の白血球の型と適合したら通知が届く。適合者が見つかる確率は、兄弟姉妹間で4分の1、非血縁者間では数百〜数万人に1人だ。

 通知が届き、提供の意思があれば、骨髄バンクのコーディネーターと面談し、詳しい説明を受けられる。医師の問診や採血も行われる。骨髄提供の場合、全身麻酔による一時的な血圧低下や不整脈などのリスクに納得することも必要だ。

 意思が変わらなければ、家族の同意を得て書類に署名する。署名するまでは、事情があれば断ることができる。ただ署名後は、患者が抗がん剤投与などの移植準備に入るため撤回はできない。

 ほかにも「末梢血(まっしょうけつ)幹細胞」を提供する方法がある。ドナーに薬を注射して、腕の血管から造血幹細胞を採取する。全身麻酔の必要はなく、海外では主流だ。

 昨年ドナーとなった呉市の井上綾子さん(34)は、腰痛の持病があったので腰に針を刺すのを避け、末梢血幹細胞の提供を選んだ。入院は5泊6日。井上さんは、薬を腕に注射した後に軽い骨痛・筋肉痛があったが「痛み止めを処方してもらえるし、それ以外は特に気になることはなかった」と話す。

 中には、頭痛や吐き気を訴えるドナーもいる。数日間は出血しやすくなることがあるが、数週間で元に戻る。退院後もコーディネーターから健康状態を確認する電話が定期的にあり、健診も受けられる。井上さんは「検査から退院まで丁寧な対応で、安心して臨めました」と振り返る。

 2人が最も気を使ったのは体調管理だ。患者の命を背負っている責任が芽生え、病気や事故には細心の注意を払ったという。検査や入院に伴う時間的な負担はあったものの「誰かの命をつなぐ役に立てたのなら」と提供に満足している。

 ▽移植で生存率2〜4割アップ ドナー支える環境には課題

 日本骨髄バンクによると、ドナー登録者は今年1月末時点で約49万人。非血縁者間の移植実施件数は、1993年の開始以来累計2万例を超える。重篤な合併症はまれで、これまでに死亡事故は発生していない。

 「造血幹細胞移植」は、白血病の患者の造血幹細胞を、健康な人のものに置き換える治療法だ。抗がん剤治療だけで治らずに再発した場合などに行う。広島赤十字・原爆病院小児科部長の藤田直人医師(小児血液疾患)は「移植によって生存率は2〜4割アップする。患者の生きる望みにつながる有効な選択肢だ」と話す。

 一方で、候補者になっても、仕事などを理由に辞退する人は少なくない。入院に加え、健診や諸手続きで複数回通院する必要があり、仕事を休んだ場合の経済的な手当てもないからだ。移植を求める9割以上の患者にドナーが見つかるが、実際に移植される例は6割にとどまる。ドナーを支える助成制度など、環境整備が課題となっている。

 ■池江璃花子選手の白血病公表

 体調不良で合宿先から帰国して検査を受けた結果、白血病と診断されたことを2月12日、自身のツイッターで公表した。治療に専念しており、復帰の時期は未定。公表を受け、広島県内の献血ルームでも、骨髄バンクにドナー登録する人が相次いだ。今月6日にツイッターを更新し「思ってたより、数十倍、数百倍、数千倍しんどい」と治療の苦しさを吐露。「でも負けたくない」とつづった。