<隠れた名盤> オール巨人『ベストコレクション ~男の歌日記~』 歌の主人公の人生が透け、胸にしみる

オール巨人『ベストコレクション ~男の歌日記~』

 82年の歌手デビュー以降の作品を集めたベスト盤。発売年順の曲目に、歌手としての確かな歩みが実感できる。

 80年代の冒頭3曲は、実に真っ直ぐな歌唱。続く90年代の『商人(あきんど)』は共演する神野美伽のリードもあり悪くはないが、台詞も曲調も『浪花恋しぐれ』の焼き直しで、どれも“人気漫才師の企画物”という感じだ。

 それが10年代の5曲目以降で一変する。歌声を少し聴いただけで、なぜか目頭が熱くなるのだ。離れていく子どもに贈る『桜の手紙』は、強くあれと伸びやかな声と、優しくあれと語るような声を使い分ける。デビュー曲を歌い直した『あんじょうやりや2015』は、出て行った女性への未練も、温かな愛情も感じさせてホロリとさせる。他にも、女やもめの淋しさを歌った『天国への手紙』、中年男のかすかな希望を歌った『男の子守唄』等々、どれも主人公の人生が透けて映って胸にしみる。まさに隠れた名歌手だろう。

 ラストの『たった独りのアンコール』は、やしきたかじんのカバー。女心を繊細に歌うたかじんに対し、巨人は情熱的に、しかも艶っぽく歌い上げていて鮮やかだ。本作を聴けば、生きるほどに深くなる人生を、もう少し和やかに受け入れられるはず。

(よしもとミュージックエンタテインメント・2315円+税)=臼井孝

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