大規模災害が念頭、遺体の身元特定で歯型に注目 神奈川県警

小型のエックス線検査装置で歯型を確かめる捜査員=県警本部

 歯の情報で遺体の身元を割り出す歯型鑑定に県警が力を入れている。念頭にあるのは、顔立ちやDNAでの特定作業が難航した東日本大震災だ。遺体の発見状況にかかわらず、正確で迅速な個人の識別が可能で、県警は「大規模災害に備えて研さんを積みたい」としている。

 県警や県歯科医師会によると、歯は硬度や耐久性に優れ、遺体が腐敗したり、焼損したりしても影響を受けにくい。1本1本の形や並び方には個人差があり、治療痕や顎の形状などを加味すれば「唯一無二の情報」になり得るという。

 東日本大震災では時間の経過とともに、顔立ちや所持品、指紋による犠牲者の判別が難航。DNA型鑑定は絶対的な精度を誇るものの、1カ月単位の時間を要する上、津波で家が失われるなどし、照合に必要な試料が得られないケースも相次いだ。

 一方、歯型の情報はかかりつけの歯科医院で入手でき、比較的に短時間での特定を可能にした。被災地に2回派遣された県警捜査1課の捜査員は「遺体を確実に早く遺族の元へお返しする上で、歯型は有力な根拠になった」と振り返る。

 県警はこうした経緯を踏まえ、歯科医と連携して歯型鑑定の取り組みを強化。身元の特定が難しい遺体が発見された場合、小型のエックス線検査装置を検視の現場に持ち込み、専門資格を持つ捜査員が口腔(こうくう)内を撮影する運用を始めた。生前の歯科情報との照合は複数の歯科医が担当し、正確性を高めている。

 県歯科医師会などの協力を得て定期的な研修の場を設け、鑑定技能の向上にも努めている。昨年は約100人の身元を突き止め、全国有数の実績だとして警察庁から表彰された。今春には新型のエックス線検査装置1台も導入し、活用の幅が広がった。

 歯型鑑定は災害時に限らず、近年相次ぐ孤独死の現場でも効果を示している。

 一昨年の夏、横浜市内の住宅で発見された60代男性は、死後数カ月が経過して腐敗が進み、住人と断定できなかった。総入れ歯で歯型での確認も困難だったが、歯科医院への問い合わせで歯茎に埋没した歯の存在が浮上。これが決め手となった。

 県歯科医師会は、大地震による津波で歯科医院が流される事態などを想定し、個人が任意で登録した歯科情報を、自治体などが一元的に管理する方策を模索している。村田拓也理事は「県内には歯科医院が約5千ある。情報が集約できれば身元特定を強力にサポートできる」と話している。

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