“働き方改革”は体内リズムの改善から 第2回『目覚め方改革プロジェクト』メディアセミナー実施レポート

2019年3月14日
目覚め方改革プロジェクト

第2回『目覚め方改革プロジェクト』メディアセミナー
“働き方改革”は体内リズムの改善から
~多様で柔軟な働き方のカギとなるのは睡眠~
実施レポート

睡眠の重要性の認知を高め、健康的で活動的な毎日を過ごせる環境を作ってほしいとの想いから、睡眠や体内リズム研究の専門家が集まり立ち上げた「目覚め方改革プロジェクト」。世界睡眠デー(2019年は3月15日)、睡眠の日(3月18日)、春の睡眠健康週間(3月11日~25日)を前に、去る2019年2月19日(火)に「“働き方改革”は体内リズムの改善から~多様で柔軟な働き方のカギとなるのは睡眠~」と題した第2回メディアセミナーを東京・八重洲で開催いたしました。

本年4月1日から働き方改革関連法が段階的に施行され、残業時間の削減や休暇の取得が進むことで、余暇の時間がより増えるものと期待されています。オンとオフのいずれにおいても活動的で有意義に過ごすためのカギとなるのが睡眠です。そこで本セミナーでは、ビジネスパーソンにおける睡眠・体内リズムの重要性や睡眠が日中のパフォーマンスに及ぼす影響について紹介しました。

はじめに、プロジェクトリーダーである久留米大学医学部 神経精神医学講座 内村直尚教授がパフォーマンスを左右する睡眠の重要性について、特に目覚めと体内リズムに着目して説明しました。続いて、「健康経営」の名付け親である特定非営利活動法人健康経営研究会 岡田邦夫理事長が、労働生産性と健康度の関連を調査した結果を交え、ビジネスパーソンが抱える睡眠の問題とその対処法について解説。次に、業務の性質上、睡眠を重要視する事業分野での取り組み事例として、東海旅客鉄道株式会社 総合技術本部 技術開発部 技術計画チーム 担当部長 清水紀宏氏が「睡眠自己管理プログラム」を活用した睡眠管理の取り組みを紹介しました。最後に、当プロジェクトの協力企業である大塚製薬株式会社 只野健太郎氏が、体内リズムに着目し、睡眠のリズムを改善することで健康に寄与する可能性のある食品成分の説明を行いました。

清水紀宏氏、内村直尚教授、岡田邦夫理事長(左から)

セミナー会場の様子

講演1 「パフォーマンスを左右する目覚めと体内リズム」

久留米大学医学部 神経精神医学講座 内村 直尚 教授

Point
■睡眠不足は心身の不調を招き、仕事の実行能力や管理能力も低下させる
■体内リズムの乱れが睡眠障害につながり、日中のパフォーマンスを低下させる
■体内リズムを整え、朝スッキリ目覚めることが働き方改革の第一歩

睡眠不足は心身の健康や日中のパフォーマンスに悪影響をもたらす
睡眠は、脳や身体のメンテナンス、疲労回復や免疫力の向上、記憶の固定など様々な役割を担っています。そのため、睡眠が不足すると知らず知らずのうちに脳や身体に悪影響が生じ、産業事故や交通事故を招く要因となったり、生活習慣病や認知症などの疾患の誘因になるおそれがあります。
ある研究では、4時間睡眠が6日間続くと1晩徹夜したのと同じレベルまで注意力が低下し、6時間睡眠でも2週間続けると同じように注意力が低下することが確認されています。8時間睡眠ではそのような注意力の低下は認められないことから、人間にとってはやはり8時間程度の睡眠が必要であると言えそうです。
仕事の面から見ても、睡眠不足は実行能力や管理能力を低下させる要因となります。睡眠不足によって認知機能が低下すると、仕事が遅れる、時間内に仕事を終えられない、ミスが増える、同時に複数の仕事を遂行できないといったパフォーマンスの低下につながってしまうのです。

週末の寝だめをやめて体内リズムを整えることがパフォーマンス向上のカギ
夜でも明るい24時間社会の現代日本では、体内リズムの乱れによる睡眠障害も増えてきています。30~60代の働く男女1,600名を対象に行った調査(※参考資料参照)では、体内リズムが乱れている人では体内リズムが整っている人よりも身体や心の調子が悪いということが分かっています。日中のパフォーマンスに関しても、体内リズムが整っている人では100点満点中80点以上のパフォーマンスができていると回答した割合が50.7%だったのに対し、体内リズムが乱れている人では36.4%という結果でした。
4月からは新入社員が入社してきますが、遅寝・遅起きの生活をしていた学生の場合、入社後急に体内リズムが変わって時差ぼけのような状態になり、仕事に集中できないといったことも起こり得ます。さらに、今年は4月から5月にかけて10連休が控えています。この10連休を挟むことでせっかく整いだした体内リズムが乱れやすく、例年より5月病が増えるものと危惧されます。
体内リズムを整えるには、週末も遅寝をせず、朝寝坊は2時間以内にとどめることが大切です。もうすぐ春分の日を迎えますが、この日を過ぎるとだんだんと日の出が早くなっていきます。朝の光を浴びる時間を早めることで、体内リズムを朝方に整えましょう。体内リズムを改善し、よい眠り、よい目覚めを得ることが日中のパフォーマンス向上につながり、ひいては働き方改革の第一歩になると期待しています。

講演2 「ビジネスパーソンが取り組むべき睡眠課題」

特定非営利活動法人健康経営研究会 岡田 邦夫 理事長

Point
■睡眠不足による日本の経済的損失は1,380億ドル
■不健康な労働者は睡眠リスクが高く、仕事の適正度や働きがいが低いと感じている
■睡眠問題を解決するには会社が介入し、仕事のあり方などを検討することが必要

短時間睡眠・長時間労働で働く日本人は時間あたりの労働生産性が低い
我が国は世界の中で睡眠時間が最も短く、長時間労働者の割合が韓国に次いで2番目に多い国です。しかし、労働生産性の水準は高くなく、日本よりも睡眠時間が1時間以上長いフランスや米国の時間あたりの労働生産性は約60ドルなのに対し、日本は約40ドルです。さらに、自分が働いている企業に対する信頼度は日本が最も低いという調査結果もあります。つまり、我が国は残業して長時間働くことで世界に肩を並べるという状態にあり、時間あたりのパフォーマンスが非常に低いと言えるわけです。
睡眠不足による経済的損失を調査したデータによると、我が国の経済的損失は1,380億ドル、実にGDPの2.92%に当たります。GDPに対する割合で見ると、先進国の中で日本が最も睡眠不足による経済的損失が大きい国ということになります。こうしたデータから、我が国は睡眠に極めて大きな問題を抱えている国であるということが浮き彫りになってきました。

ビジネスパーソンの抱える睡眠問題を解消するには企業の介入が必要
そこで、我々は当NPO法人の会員企業と共同で、労働者の健康度と労働生産性との関連についてプレゼンティーズム評価とストレスチェックの結果を基に分析を行いました。18~77歳の働く男女1万4,632名を対象に調査した結果、不健康で生産性の低い群、健康ではあるが生産性の低い群、不健康ではあるが生産性の高い群、健康で生産性の高い群の4群にタイプが分かれることが明らかになりました。
睡眠との関連性を見てみると、健康な群は睡眠に対するリスクが低いのに対し、不健康な群は睡眠を十分にとれておらず、睡眠に対するリスクが高いことが分かりました。また、不健康な群では就業時間中に眠気を感じる割合も高くなっています。さらに、ストレス因子との関連性を見た結果では、不健康な群で仕事の裁量度や適正度、働きがいが低いと感じていることも明らかになりました。こうしたストレスが日々の悩みにつながり、睡眠不足の要因になっているとも考えられます。
労働時間がきちんと管理されれば長時間労働がなくなり、十分な睡眠時間の確保につながります。また、職場でのコミュニケーションが良好であれば会社に行くのが億劫でなくなり、朝の目覚め方も変わってくるはずです。睡眠の問題は個人では解消できないことが多いため、会社がある程度介入して仕事のあり方や仕事の与え方を検討していかなくてはならないと思います。

講演3 「睡眠自己管理プログラムの活用による仕事のパフォーマンス向上」

東海旅客鉄道株式会社 総合技術本部 技術開発部

技術計画チーム 担当部長 清水 紀宏 氏

Point
■運転業務中に高い覚醒度を維持するには、日々の睡眠を管理することが重要
■睡眠自己管理プログラムを活用した睡眠管理により、体内リズムや作業能力が改善
■睡眠を自主的に管理することが自己管理能力の向上にもつながる

運転業務中の覚醒度を高めるために「睡眠自己管理プログラム」を導入
安全安定輸送の確保は鉄道事業の原点であり、安全な設備や仕組みとともに社員一人ひとりの力によってそれが実現されています。中でも、乗務員には安全運転や不測の事態に対する迅速かつ適切な判断力が求められますが、勤務形態は不規則・不定期で睡眠時間が不足しやすく、長時間同じ姿勢のまま1人で運転するなど眠気を誘発しやすい作業環境に置かれているのが実情です。したがって、運転業務中にいかに高い覚醒度を維持するかが極めて重要です。
高い覚醒度を維持するには、日々の睡眠管理を行い眠気が起こるのを未然に防ぐ必要があります。そこで、当社では睡眠自己管理プログラムを導入し、就寝・起床時刻や勤務時間、出社時の眠気、疲労度をシステムに入力することで、自身の睡眠状態を把握してもらうようにしました。勤務によって寝不足となる日もあるため、睡眠状態は10日間で評価し、100点満点のスコアが表示される仕組みです。さらに、体内リズムが24時間周期となっているのかがグラフで示され、睡眠に問題が認められる場合は、「日々の起床時刻の差を2時間以内にする」などのアドバイスが表示されるようになっています。

自主的な睡眠管理は仕事のパフォーマンスのみならず自己管理能力も高める
睡眠自己管理プログラムは、睡眠日誌への就寝・起床時刻の記入、睡眠自己管理プログラムの入力、アドバイスを参考にした睡眠管理の3つのステップからなるサイクルを繰り返すという仕組みで運用しています。実際に、睡眠自己管理プログラムの活用によって、体内リズムの改善や作業能力の改善といった効果が認められ、社員からは「昼間の眠気が低減した」「取り扱いミスが減った」などの声が聞かれます。
睡眠・体調の管理は自主的に行うことが重要であることから、プログラムも「睡眠“自己管理”プログラム」と名付けました。当社では、「睡眠管理の手引き」の配布や睡眠管理インストラクターの養成による職場教育の充実などを通して、自主的な睡眠管理のサポートを行う一方で、睡眠自己管理プログラムの活用継続のために各職場が独自に行う活動について発表する場を設け、相互啓発を促す取り組みも実施中です。
睡眠自己管理プログラムを活用した睡眠管理は、仕事のパフォーマンスだけでなく自己管理能力を向上させることにつながり、それによって社員一人ひとりのプロ意識が高まれば、会社全体の安全文化も向上するはずです。睡眠管理という地道な取り組みを継続していくことが、安全を使命とする企業として大事だと考えます。

講演4 「大塚製薬 情報提供」

大塚製薬株式会社 ニュートラシューティカルズ事業部

ソーシャルヘルス・リレーション部 課長 只野 健太郎 氏

Point
■長時間労働は睡眠の量・質を低下させ、生産性の低下がさらなる仕事の長時間化を招く
■アスパラガス由来成分「アスパラプロリン」には睡眠の質および、仕事のパフォーマンスを改善させる可能性がある

高いパフォーマンスを発揮するには休息のあり方に目を向けることが重要
働き方は過去10年で大きく変化し、場所や時間にとらわれず個々に合った働き方を選択できる時代になりました。いつでもどこでも働ける環境が広がったことで、社員がいきいきと働くためには残業を減らすなどの業務改善に取り組むだけでなく、休息のあり方にも目を向ける必要が出てきたと感じています。
労働時間と睡眠問題との関連についてみてみると、労働時間が長くなるにつれて睡眠時間の短縮や入眠困難、起床時の疲労感などのリスクが高まることが分かっています。睡眠の量・質的な低下は健康を損なうだけでなく、労働生産性を低下させ、仕事を長時間化させるという負のサイクルを生み出します。どこかでそれを断ち切らなければ、働く本人にとっても会社にとっても大きな損失になると考えられます。

睡眠の質やパフォーマンスを改善させる可能性のある機能性成分「アスパラプロリン」
睡眠の問題を引き起こす要因は様々ですが、根底のひとつにあるのは体内リズムの乱れであることが指摘されています。私ども大塚製薬は、体内リズムの乱れから改善を図る新しいアプローチで睡眠問題を解決し、起きている時間を有意義に過ごすことができないかと考え、研究開発を行ってきました。その中で、アスパラガスを加熱・酵素処理することで生み出される、通称「アスパラプロリン*」に着目しました。
実際に、20~49歳の夜型生活を送る男性を対象にアスパラプロリンを含む食品を摂取してもらったところ、アスパラプロリンを含まない食品を摂取した場合と比べて睡眠の質が改善し、日中の覚醒度や作業能力を評価する検査(Psychomotor Vigilance Task;PVT)のスコアが改善することが分かりました。このことから、アスパラプロリンには睡眠の質を改善することで日中の仕事のパフォーマンスを改善させる作用が期待されます。
働き方改革の実現に向けて動き出した今、ビジネスパーソンには自分自身をマネジメントすることが求められています。その1つとして、朝のスッキリとした目覚めからスタートする覚醒と適切な睡眠リズムを両立したライフサイクルを作ることが重要です。「目覚め方改革プロジェクト」の協力企業として、睡眠の重要性に対する認知の向上と健康的で活動的な毎日を過ごせる環境作りへのお手伝いを通じて、皆様の健康維持・増進のお役に立てればと思っております。

* アスパラガス由来含プロリン-3-アルキルジケトピペラジン(シクロ(L-ロイシル-L-プロリル)、シクロ(L-フェニルアラニル-L-プロリル)、シクロ(L-チロシル-L-プロリル)として)

【プロジェクト概要】
名称:目覚め方改革プロジェクト
設立:2018年8月29日(水)
目的:目覚め方および体内リズムを整えることの重要性を啓発する
プロジェクトメンバー:
内村 直尚(久留米大学 医学部 神経精神医学講座教授)
駒田 陽子(明治薬科大学 リベラルアーツ 准教授)
岡島 義 (東京家政大学 人文学部 心理カウンセリング学科 准教授)
北村 真吾(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部 臨床病態生理研究室 室長)

協力:株式会社アミノアップ/大塚製薬株式会社/特定非営利活動法人健康経営研究会/一般社団法人日本予防医学協会/株式会社バスクリン ※五十音順

活動内容:
・情報発信のプラットフォームとして、WEBサイト「目覚め方改革プロジェクト」 を開設および運営
・睡眠や体内リズム研究の専門家から「目覚めと体内リズムの重要性」に関する情報を発信
〔プレスリリース、コラム(WEBサイト内月1回更新予定)、セミナー開催など〕

【目覚め方改革プロジェクト WEBサイト】
URL:http://mezame-project.jp/

「目覚めスッキリコラム」 Vol.08を公開しました
明治薬科大学 リベラルアーツ 准教授
駒田 陽子先生
『体内リズムの乱れが女性の「月経」にも大きく影響』