川崎市農業技術支援センター(多摩区)が約10年の研究を重ね、同区を中心に栽培されている伝統野菜「のらぼう菜」の新品種の育成に成功した。葉と茎に光沢があり見栄えがする点が特徴で、先月には農林水産省に品種登録された。市町村の出願に基づく品種登録は県内初。都市農業の活性化を目指す市は生産者への普及を進め、来春には愛称も決めて消費者にPRしていく。
市によると、のらぼう菜は菜の花に似たアブラナ科の野菜。市内では多摩区菅地区を中心に江戸時代から栽培が続き、現在では少なくとも市北部の農家150軒超が生産に携わる。作付面積は約3.3ヘクタールで、年間収穫量は約13トン(2018年度)に及ぶ。
青菜類の少ない2~4月に旬を迎えるのが強みで、害虫の心配がなく無農薬で育成できる。「かながわブランド」と「かわさき農産物ブランド」にも認定され、市は明治大学や県と共同研究を進めて栽培マニュアルを作成し、生産拡大に努めてきた。
新品種誕生の発端は06年にさかのぼる。同センター技術支援係の古山和弘係長(51)が、調査のために育てていたのらぼう菜の中から、葉と茎に光沢がある苗を1本発見した。
「農家では、こうした苗は間引きますが、面白いと思ったんです」。良質の個体を選別しながら、自家受粉で種子を採ることを繰り返して改良を重ねた。古山さんを含め7人の職員がたすきをつないで研究を継続した結果、形質が安定化。17年3月に農林水産省に品種登録を出願し、今年2月14日に認められた。
味や栄養価などは従来ののらぼう菜と同じで、ほかのナバナに比べると茎の部分に筋がなく、アブラナ科特有の苦味もないという。くせのない強い甘みも本家譲りだった。
「袋詰めしても店頭で映える光沢が新品種の特徴。おひたしや炒め物のほか、パスタやうどんの具材としてもおいしい。いろいろな料理で使ってほしい」と古山さん。定例会見で新品種を試食してPRした福田紀彦市長は「すごく甘い。えぐみがまったくない」と太鼓判を押した。
同センターは今後、夏にかけて新品種の種と苗を育成し、10月ごろに生産者へ提供する。来年3月ごろに試食会などのイベントを開催し、愛称を決定する方針だ。古山さんは「新品種はもちろん、のらぼう菜も市南部ではまだまだ知られていない。品種登録を機に多くの人にPRをしていきたい」と意気込んでいる。