「北方領土、絶対渡さない」ロシアが送り続けるシグナル

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太田清

47NEWS編集長

太田清

47NEWS編集長

共同通信社入社後、広島支局、大阪社会部、外信部、経済部、ベオグラード支局、モスクワ支局、ローマ支局などを経て2016年より現職。イトマン事件、阪神大震災、コソボ紛争、ユーゴ空爆、モスクワ劇場占拠、アフガン紛争、ギリシャ財政危機、東日本大震災などを取材。

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色丹島の病院を訪問したロシアのセルゲイ・イワノフ大統領特別代表(左から2人目)ら=2月26日(サハリン州提供、タス=共同)

 1月22日にモスクワで今年初めての日ロ首脳会談に臨み、共同記者発表で「相互に受け入れ可能な解決策を見いだすための共同作業を力強く進めていく決意を確認した」と強調した安倍晋三首相だが、ロシア側は会談以降も妥協する姿勢を一切見せず、逆に日本に対し「領土は渡さない」とのシグナルを次から次へと送っているのが現状だ。 

 交渉相手が発する政治的シグナルを正しく受け取ることが外交の根幹をなすことは言うまでもないが、会談のたびに「平和条約締結交渉を加速させることで一致」などと“大本営発表”を繰り返す安倍政権はどうとらえているのだろうか。日本が描いていたとされる歯舞群島、色丹島返還で交渉を決着させる「2島プラスアルファ」での年内大筋合意の構図は崩れ、新たな戦略の構築に迫られている。ロシアメディアの報道などを基に、硬化する一方のロシア側の姿勢を検証してみたい。 (共同通信=太田清) 

 ▽冷や水 

 2月12日、安倍晋三首相は衆院予算委員会で、ロシアとの平和条約締結交渉を巡り「平和条約を締結するということは国境を画定することだ」と明言。北方四島のうち歯舞群島、色丹島の返還で交渉を決着させる「2島決着」をにじませた。 

 一方、ロシアのラブロフ外相は16日のドイツ・ミュンヘンでの河野太郎外相との会談後、北方領土がロシア主権下にあると認めることが平和条約締結の絶対的条件との従来の主張を繰り返した上で、交渉について「ロシア側は一切の期限を設けていない」と指摘、6月の大筋合意との日本の戦略をけん制。交渉期限については、プーチン氏も1月の首脳会談で「骨が折れる作業が今後控えている」と早急な解決が難しいとの姿勢を示していた。 

 ラブロフ外相はさらに、2月24日までに行われたベトナム、中国メディアとのインタビューで、安倍首相がロシアとの領土問題を解決して、平和条約を締結すると表明していることについて「その確信がどこから来ているのか分からない。プーチン大統領も私も、そうした発言につながる根拠は与えていない」として「現状では平和条約締結のための条件は日ロ間で全く存在していない」と冷や水を浴びせた。安倍首相は翌25日の衆院予算委員会で、ロシア外相の発言に対し「交渉の場以外の発言について、いちいち反応するつもりはない」とコメントを拒否。立憲民主党会派の今井雅人氏は「ゼロ回答だ。ロシアに相手にされていない」と指摘した。 

 ▽異例の調査 

 ロシア政府系「全ロシア世論調査センター」は2月、北方領土の島民約7700人に対する調査を実施。島民だけを対象とした調査は異例で、96%が日本への島の引き渡しに反対したと発表した。調査は北方領土に住む有権者の約3分の2を対象に実施。択捉島で97%、国後島で96%、色丹島で92%が引き渡しに反対(歯舞群島には民間人は住んでいない)、引き渡すべきだとの回答は2%にすぎなかった。一部では、この時期に政府系の調査機関が島民対象の世論調査結果を発表したことに政治的意図があるとの指摘もされた。 

 ▽大統領代表「絶対ない」 

 26日には、ロシアのセルゲイ・イワノフ大統領特別代表とノスコフ通信情報相が、色丹島を訪れ、サハリンと択捉、国後、色丹各島を結ぶ光ファイバーの開通式典に出席した。イワノフ氏はシロビキ(治安機関・軍の出身者)派代表として国防相や第1副首相、大統領府長官を歴任。一時はメドベージェフ元大統領と大統領候補指名を争った実力者でプーチン大統領とも近い。 

 光ファイバー開通は北方領土のインターネット環境の改善が目的で、ロシアと「戦略的パートナーシップ」関係を構築し投資を拡大する中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)が敷設。第三国による北方領土への投資に当たるとして、日本政府は反対の立場を取ったが中ロ双方ともこれを無視、計画を実行した。 

 イワノフ大統領特別代表は訪問中、北方領土の日本への引き渡しについて、引き渡し後の北方領土への米国による地上配備型迎撃システム配備の可能性について触れた上で、「絶対にあり得ない」と最大限の表現を使い、これを否定した。 

 ▽領土交渉に「終止符」 

 ロシアメディアRBKは3月12日、クレムリンやロシア外務省に近い筋の話として、ロシア政府には日本に島を引き渡す「計画はない」と報じた。RBKによると、ロシアは「外交的配慮」から引き渡し拒否を直接日本に伝えることを望んでいないものの、日本に対し①第2次大戦の結果として北方四島がロシアの主権下にあることの承認②島が日本に引き渡されても米軍基地を設けない保証―を要求。要求は日本がこの条件を受け入れないことを見越して行われたもので、結果的に引き渡しを事実上拒否したことを意味するという。 

 ニュースサイト「ガゼータ・ルー」はRBKの報道について、「ロシアが領土交渉に『終止符』」との刺激的な見出しを付けて転載した。報道はクレムリンによる意図的な「情報漏えい(リーク)」とみられる。 

 ペスコフ大統領報道官はこの報道を受け「日本側と議論しているのは、島を引き渡すかどうかの問題ではなく、平和条約の締結だ」と述べ、昨年9月にプーチン氏が安倍氏に行った「前提条件なしの平和条約の締結」の提案に沿い、日ロ両政府が進める平和条約締結交渉では島の引き渡しを協議していないと主張した。 

 ▽軍事演習 

 ロシア軍の極東地域を管轄する東部軍管区は12日、昨年2月に続き、択捉島と国後島で約500人が参加する軍事演習を開始。敵の上陸作戦に対する訓練などを実施した。ロシアは近年、核ミサイルを積んだ原子力潜水艦を活動させているオホーツク海防衛のため、千島列島や北方領土の軍備を増強、択捉、国後両島を軍事拠点化。択捉島には新型地対艦ミサイル「バスチオン(射程300キロ以上)」が、国後島には「バル(同130キロ)」が、それぞれ配備されている。日本政府は毎回、外交ルートを通じてロシア側に軍事演習について抗議しているが、例によってロシア側はこれを無視している。