最悪の事態における初動対応シナリオ

プロローグ-2『真実のとき(Moment of Truth)』

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大統領への報告

8月29日 木曜日 午後4時24分 ワシントンDC ペンシルバニア街NW ウィラード・インターコンチネンタル・ホテル

大統領が満席の聴衆にスピーチをしているとき、副官は舞台を横切って演壇までゆっくりと歩く。最高司令官は話を途中で遮られることには慣れていないので、舞台裏へ案内されると激怒する。

しかし同時に何かまずいことがあるのだと感じる。話が中断される寸前、聴衆は気をとられ緊張しているように見えた。大統領は部屋に静電気のような奇妙な空気があるのを感じた。人々が自分の話を聞こうとしないのは何かが間違っているときだ。

小さな会議室に入るや否やもう一人の補佐官が携帯電話で撮った写真のスライドショーを始める。それらは巨大な火の玉とミッドタウンの全体に放射している星が飛び散ったような爆風の画像である。大統領のいら立ちは高まる。

「一体この地獄絵は何なのだ」

大統領に別の携帯電話が手渡されるが何の応答もない。

「もしもし私だ」

「はい、申し訳ありません、大統領。それらは我々の偵察衛星がこの15分間に撮影したものです。ニューヨーク市で核爆発が起きたようです。写真から計算すると5~7キロトンの核出力と思われます」

長い沈黙が入る。

「誰なのだ」

「残念ながら何も情報がありません。ラングレーに連絡をとりましょうか?」

大統領は驚愕している。明らかに最悪の事態がその身に降りかかっているのであり、言葉を失っている。やっとのことでつぶやいた。

「それで我々は何をしているのだ。今このとき」

一瞬誰も話さない。

「オジャミ長官に連絡をとっています」

誰かが言う。国土安全保障省の長官のことである。

「ともかくあなたには安全な場所に移動していただきたい、、、」

初動対応

8月29日 木曜日 午後4時25分 ニューヨーク市グリニッジビレッジ ニューヨーク市消防局第18分隊  

閃光を見ると第18分隊の隊員は消防署に集結する。アンソニー・パディラ次長と隊員は消防車から飛び降りて装置室の前へ走る。

東西に目を凝らしても青空以外には何も見えない。隊長は振り向いてタイシャ・ブラウンが北方を見るために四つ角へ走るのを見る。その視線の先の6番街には火柱が1.6キロも空に突きあがっていた。タイシャは同僚に呼びかける。二人は彫像のように凝視する。

互いに気を取り直した後、消防署へ戻る。警告ベルは鳴り続けているが、無線は反応しない。第18分隊にはどこへ行けという指令は必要ない。3分間で消防車に戻り北へ走り出す。放心状態の血だらけの人であふれている歩道を横目にアメリカ街を北上する。何が起きたのか、何をすべきなのかがまるで分らない人たちである。店の表のガラスは割れ飛び、破片が路上を覆っている。

20丁目で、かつてホーリー・コミュニオンのエピスコパル教会だったところで、今はナイトクラブとなっているライムライトを通り過ぎる。バラのガラスがあった黒い穴を見つめるタイシャの頭に浮かぶのは昨夜の記憶である。

エンストした自動車が進行を遅らせ、グラウンド・ゼロまで1.6キロの23丁目に近づくにつれて破壊の強烈さが増してゆく。建物は吹き飛ばされ、崩壊しており、内部は火災となっている。6番街を横切るがれきと転覆した車両に遮られて、消防車はもう先には進めない。パディラは用具をかついで歩くよう命じる。消防車から転げるようにして通りに出ると刺激性の煙が目に焼き付く。

歩き進むにつれて第33機械隊、第15梯子隊、水上隊1の隊員たち、ニューヨーク市警港湾パトロールの警官たちが合流する。前方、タイムズスクエアの方向には高さ30メートルの火の壁がある。ぞっとしながら北へ歩いてゆくと、広がる視界によって恐怖の衝撃波が引き起こされる。

事態は悪化する一方である。歩道は座り込んだり横たわったりする人々であふれている。ベルトにつけた放射能測定器の数値はあがり続け、裂けたガス管から漏れるガスの匂いが埃っぽい空気に充満する。火災から出る煙は濃度を増すばかりである。

崩落した建物は次々に火災となるので、建物から建物へと消火をして回る。パディラは、消火は意味がないと判断して、ホースを置いて被害者を探索するよう命じる。6番街と25丁目の交差点の真ん中で轟音とともに亀裂したガスの本管が燃え上がり、その恐ろしい青い炎が黒色の空を引き裂く。

(続く)

翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300