昨夏は延長タイブレークで13回に満塁弾を浴び試合終了、それ以来の甲子園のマウンドへ
あのマウンドからはもう半年以上経つが、やはり脳裏にこびりついた残像が自らを奮い立たせる。ドラフト候補右腕・奥川恭伸投手とともに星稜のブルペンを支える左腕・寺沢孝多は、その試合の録画を見返す気持ちにはなかなか、なれなかった。
「やっぱりどこか頭の中で(当時の場面が)出てくるので、家で録画を見てしまいます。見ることで、やってやろうっていう気持ちになります。悔しいのは悔しいですが……」
昨夏の甲子園2回戦の済美戦。延長タイブレークとなった9-11で迎えた13回にサヨナラ満塁ホームランを浴びてゲームセット。その時、マウンドにいた寺沢の悔しい表情は、テレビ映像などで今でも流れることがある。今でこそ冷静に振り返られるようになったが、当時噛みしめた悔しさは今でも忘れられない。
新チームになって最上級生となり、目指してきたのは“勝てるピッチャー”だ。
「勝てるピッチャーというのは点を取られないピッチャーだと思っています。でも、ピッチャーにも色んなタイプがあるので、自分は制球力とキレで抑えられるようになりたい。そこを見ながらやってきました」
昨秋はエースの奥川恭伸に次ぐ23回1/3を投げたが、主に中継ぎだった。3失点と数字としては決して悪くはないが、寺沢の中ではどうもしっくり来ない秋だった。
「調子の波が激しくて、良い時と悪い時の差がありました。フォームも不安定だったので、この冬はまずフォームを固めることから始めました」
リリース時、どうしても左腕が体から離れてしまう傾向があった。ピッチング練習では、いかに体の近くで離せるか。試行錯誤を繰り返しながら最良のフォームを固めていった。
初戦は履正社と強豪対決「奥川1人に頼ってはいけない」
そして、もうひとつ意識するのはストレートの球質だ。
「速さだけでなく、回転数なども上げて球質を上げたいと思ってやってきました。キレのあるストレートで打ち取れるようになりたいです」
やはり、気になるのは奥川の存在だ。
「すごいのはもちろんですけれど、奥川1人に頼ってはいけない。自分も奥川と同じぐらい投げないと全国制覇は近づいてこない」
エースの偉大さより、自分の置かれる立場を強く意識する。
星稜中時代は奥川に投げ勝って日本一の経験を持つ寺沢にはプライドもあるが、現状の自分の役割を理解し、まずは“勝てるピッチャー”となって、3度目の大舞台のマウンドで躍動したい。
「周りが安心して送り出してくれるようなピッチャーであることが理想です。周囲の信頼を得て、自分もいるんだという気持ちを持って投げていきたいです」
星稜の初戦は履正社(大阪)との優勝候補対決に決まったが、甲子園での悔しさは甲子園でしか晴らせない。この春は笑顔で聖地のマウンドに立ち続けることが、何よりの目標でもある。(沢井史 / Fumi Sawai)