「日本で崇拝されるヒーロー」 地元メディア大特集、米派遣中のハム矢野氏の“今”

昨季限りで現役を引退した日本ハム・矢野謙次チーム統括本部特命コーチ【写真:石川加奈子】

日ハムの特命コーチとしてレンジャーズに派遣中「ヤノは日本で、ある種崇拝されるヒーロー」

 昨季限りで現役を引退し、日本ハムのチーム統括本部特命コーチとしてレンジャーズに派遣されている矢野謙次氏が、米国で奮闘しているようだ。米スポーツメディア「ジ・アスレチック」が、大作の特集記事を掲載。日本時代の経歴も紹介しつつ、矢野コーチの“今”について掘り下げている。

 矢野氏は2002年ドラフト6位で巨人に入団。2015年6月に日本ハムにトレード移籍し、昨季限りで引退すると、チーム統轄本部特命コーチへの就任が発表された。今月からレンジャーズに派遣されており、渡米後にはユニフォーム姿の写真をインスタで投稿。話題となっていた。

 そんな矢野氏について、「ジ・アスレチック」は「コーチングを学ぶためレンジャーズのキャンプに参加中の、日本で崇拝されるヒーローのケンジ・ヤノと出会う」とのタイトルで特集。「レンジャーズファンはケンジ・ヤノという名前にピンと来ないかもしれないが、それもそのはず。彼はテキサスで一度もプレーしたことがない」とした上で、日本時代も主に代打として現役生活を送ったというキャリアを紹介している。

 ただ、巨人でも日本ハムでも、その人気は絶大だった。レンジャーズには、2016年の日本一に貢献したクリス・マーティン投手がいるが、同メディアの取材に対して「とてもクレイジーだよ。アメリカでは代打が登場しても、ファンはさほどリアクションしない。でも、ヤノがネクストバッターズサークルに現れると、ファンの歓声がもの凄いことになるんだ……」と証言している。

 なぜ、矢野氏は日本でそんなに人気があったのか。特集では、その理由も探っている。「ヤノは代打で出場し始めたころは、その役割を望んでいなかった。けれども、代打で活躍し始めるにつれ、それを楽しむようになったと語った」。本人への取材を基に、記事ではこのように言及。「代打の役割は日本の試合において異なった見方がされている」。試合を決める勝負強さは間違いなくファンの支持を得る上で重要な要素だった。ファンを盛り上げる矢野氏の明るさについては触れられていないが「ヤノは日本で、ある種崇拝されるヒーローになった」と表現。さらに、献身的な姿勢も日本のファンの心を打ったのではないかと、推測している。

「なぜそれほどまでにファンと気持ちが通じ合うようになったのかを、彼は未だに理解していない。おそらく、脇役的な役割を受け入れた彼の姿勢を支持していたからであろうと、彼は示唆している。または、彼の怪我からの復帰を応援していたのかもしれない」

矢野氏の一日の動きは…

 まだ半年前までは選手だったとあって、「練習を見ていると選手時代が恋しくなることを認めている」という矢野氏。ただ、特集では、日本ハムとレンジャーズが業務提携を結んでおり、矢野氏がコーチ見習いとしてレンジャーズのキャンプに参加していると紹介。ジョシュ・ボイドGM補佐は「もしコーチや監督になることが、ケンジの辿る道であるなら、彼は昨年引退してファイターズの組織内でコーチになることができたはずだ。けど彼ら(日ハム)は彼をここに派遣し、違う世界を経験させてあげるチャンスを与えた。そういった彼らの理念が、私の興味を引いた」と話しているという。

 そして、指導者としての収穫は多いようだ。

 矢野氏は、キャンプに参加している監督、コーチ、選手の関係が日本と米国では違うということを記事の中で説明しており、レンジャーズのベンチコーチを務める日系3世のドン・ワカマツ氏も「アメリカと日本のやり方の違いは、選手とコーチの間のコミュニケーションが、ここでは遥かに広く行き渡っている点だと思う。彼は今それを実感していると思う。日本ハムファイターズはその点でうまくやっているのは事実であるけれども」と指摘。日本ハムに戻ってから、この経験が生きることは確かだろう。

「ジ・アスレチック」は、矢野氏がどのような生活を送っているかも紹介。この日は「朝6時30分にウェートトーレニングルームに入ってルーティーンである特定の体の部分のストレッチ」→「朝8時に選手や球団スタッフとのミーティングに参加して、打席内での打者の心理について話し合う」→「朝9時にフィールドに入り、レンジャーズの選手たちが練習している姿を見学し、写真を撮って、ウォームアップ」→「午前10時15分にクラブハウスに戻ると元ハムのクリス・マーティンと談笑」→「早めのランチの後にエンゼルスとの試合でディアブロ・スタジアムに向かう」→「15時半頃に試合が終わったものの、大谷とは話をするチャンスはなし」という流れだったという。

 メジャーで“野球漬け”の日々を送っている矢野氏。代打の切り札として絶大な人気を残った“職人”は、指導者として順調なスタートを切っているようだ。(Full-Count編集部)

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