自治体消滅!再生の鍵握る「よそ者」視点

人口減…〝勝てない〟戦いにブランドイメージ

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左は兵庫県多可町で開かれた「多可・冬のホタル2018」で、点灯されたあんどんを見つめる子ども、右はイベント光景(小椋聡さん撮影、提供写真)=2018年12月8日

 少子高齢化や都市への人口流出が進み、2040年までに全国約1800市町村のうちほぼ半数が消滅する恐れがある地方自治体。各自治体は知恵を絞り、生き残りに懸命だが、外から地域の魅力を見てきた移住者が地域おこし協力隊などとして活躍、「よそ者」の奮闘が再活性化の鍵を握る。兵庫県と奈良県にある二つの自治体をのぞいてみた。(共同通信=大阪社会部・真下周、神戸支局・三野多香子)

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 ▽九死に一生を得て 

 兵庫県のほぼ中央に位置する人口約2万1千人の多可町。昨年12月中旬のある夜、花が一つも咲いていない町立公園「ラベンダーパーク多可」に数百人の町民や観光客が集まり、にぎわっていた。お目当てはホタルに見立てた千個のあんどんを同時に点灯するイベント「多可・冬のホタル2018」。町職員は「普段は人っ子ひとり通らない場所で、すごいことだった」と振り返る。

 ちぎった新聞紙をのりで貼り合わせて釣り鐘状にし、側面に穴を開け、LEDをつるしたあんどんは町民らの手作り。閑散とした約5ヘクタールのラベンダー畑に無数の光が浮かび、揺らめいた。夏の名物ホタルを、冬に生かそうという発想だった。

手作りのあんどんと、イベントを企画した小椋聡さん(右)=2018年12月8日午後、兵庫県多可町、左は同日のイベントシーン(小椋さん撮影、提供写真)

 6年前に兵庫県西宮市から夫婦で移住したデザイナー小椋聡さん(49)が企画。自ら古民家を譲り受けた経験から、古民家の利活用や地域活性化のイベントを手がけ、町の委託を受けて移住希望者の相談に乗る「定住コンシェルジュ」も務める。

 小椋さんは05年4月25日の尼崎JR脱線事故で、最も犠牲者が多かった2両目に乗っていて重傷を負った。九死に一生を得たが、被害者の活動に深く関わるうち、妻朋子さんが「代理受傷」し、重いうつ状態に。2人は静かな環境を求めて、多可町に移り住んだ。

 冬のホタルのきっかけは公園を運営するNPO法人理事長の森本寿文さん(64)から「冬にお客さんがとても少ない」と相談を受けたこと。花が咲く夏の週末は1日約千人が来場するが、冬はわずか数十人。併設の食堂や喫茶店の黒字分では畑の管理費や人件費は穴埋めできず、町からの管理料に頼らざるをえない。

 当初は企画が実現できるか疑心暗鬼だった森本さんも、子ども食堂や介護施設で老若男女を問わず楽しそうにあんどんをつくる様子を見て、成功を確信した。「ずっとここに住んでいると気づかないこともたくさんある。働き掛け次第で(状況を)改善できることを教えてもらった」と小椋さんに感謝しきりだ。

 小椋さんは「日本全国で人口が減っていく時代に移住、定住は〝勝てない〟戦いだ。過疎地域を守るにはアイデアが必要。都会からの移住組だから、暗闇の深さやホタルの光の美しさに気づきやすかったのかも」と話す。多くの住民が参加することで、地元の人に施設の可能性を再発見してもらうのも狙いの一つ。今回の成功を受け、今年11月にも開催予定という。

 多可町定住推進課によると、定住コンシェルジュの仕組みは、内閣府の地方創生推進に関する交付金を活用する。小椋さんに委託する前の15年度の移住者は10人程度だが、委託後の16年度は22人。「空き家バンク」の活用もあり、17年度は34人と着実に増やしている。

 10年に約2万3000人だった町の人口は、自然減や流出で15年には1000人超が減り、20年の推計値も2万500人程度と減少傾向は変わらないが、町への移住者を増やすことで進行に歯止めをかけたいという。

 同課の笹倉尚美さんは「以前は移住の相談会をしても、『うちは座っておくだけやから』という先輩からの引き継ぎ通り、ブースは閑古鳥だった。今では半日で数組は相談に来る。小椋さんを紹介し、彼らに現地を案内してもらうと説得力がまるで違う」と喜ぶ。町の知名度の低さが悩みだったが、地域のブランドイメージは確実に上昇していると肌で感じている。

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イベントが開かれた木造廃校舎の中庭で走る子どもたち=2018年12月15日、奈良県五條市

  ▽「校舎ににぎわいが…」

  奈良県五條市の大塔地区宇井。11年9月の紀伊半島豪雨で「深層崩壊」による大規模な山崩れが発生し、複数の住宅がのみ込まれた。犠牲者は11人。今も跡地を造成する工事が進められており、今も惨劇を生々しく物語る。地区の人口は270人ほどで被災前の半数近くに。6割超を高齢者が占める限界集落だ。

 現場のそばに、意匠をこらした小さな木造校舎が立つ。「五條市立大塔小中学校」の立て札。04年に地元の小中学校を統合した際に新築された。豪雨で建物こそ被災を免れたが、付近は一時、立ち入り禁止となり、近隣の中学校を仮校舎として避難。その後も子どもの数が戻らず、校舎は7年間使われただけで昨年3月に廃校になった。

 村上祥隆さん(54)は昨年10月、五條市で初の地域おこし協力隊(臨時職員)に任命された。誰もが一目で魅せられる美しい校舎を拠点とした企画「大塔ライフハウスプロジェクト」が任務。1年契約の最長3年間に何らかの成果が求められる。校舎そばの元教員宿舎に住み込み、3人の子と妻がいる堺市内と行ったり来たりの生活をする。

 同12月中旬には第1弾としてクリスマスの1泊イベントを開催。募集をかけたところ、予約が相次ぎ、大阪市などから15家族約50人が参加した。

 地元で調達した杉やヒノキの枝葉を使ってクリスマスリース(飾り)を制作。夕食はいのしし鍋や鹿肉の焼き肉で、近くの天然温泉につかった後は、教室に布団を並べて泊まった。イベントは大盛況だった。

 五條市大塔支所の吉川佳秀総務課長は廃校に心を痛めてきた地元の一人。吉川さんの子どもも大塔小中学校の卒業生で、まだきれいな教室に置かれた学習机には氏名が残る。

 当日、極寒の中で子どもらが中庭を走り回り、歓声を上げる光景を見て、吉川さんは「被災以来、シーンとしていた校舎ににぎわいが戻って感無量。地域を少しでも知って帰ってもらいたい」と目を細めた。

 消滅が目前の地域をどうやって再生させるのか。実はこのプロジェクトの仕掛け人は、大阪市内や奈良県三郷町で障害児の放課後等デイサービスなどを手がける「どすこい部屋」を主宰する牧師鈴木ゴリ宣仁さんだ。

 2年前に吉川課長の勧めで現地を視察し、校舎の素晴らしさに感激した。再生計画を町に提案したところ、とんとん拍子で話が進んだ。ゴリさんは「まさか採用されるとは思っていなかった。とにかく地域に人を呼び込みたい」と苦笑する。

 村上さんは、当時の勤め先の物流会社を辞めようとしていた矢先に、知人のゴリさんから声を掛けられ、一念発起して地域おこし協力隊に。ただ過疎化が進行し、バス通学を強いられる教育環境を考えると、家族ぐるみの移住は諦めざるをえなかった。

 付近に商店もなく、住民にとって命綱は週に3、4回やってくる移動スーパーだ。村上さんは、地元の人と信頼関係を築くため、移動販売車に付いて回り、顔を覚えてもらうことから始めた。

 隊員2年目を迎える10月から、学校を拠点にした複数の新事業をスタートさせる。障害者の居場所や職業訓練、高齢者の介護のスペースとしての活用で、コンセプトは「死ぬまでつながれるコミュニティーづくり」。これらの事業から雇用を生み出し、30世帯100人の移住を目指す。村上さんは「簡単ではないが、一つでも軌道に乗せたい」と意気込んだ。

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イベントが開かれた木造廃校舎=2018年12月15日、奈良県五條市

 総務省によると、地域おこし協力隊は09年に制度が始まった国の交付税措置。年間1人当たりの人件費として250万円、活動に必要な経費として150万円を上限に支出する仕組みだ。

 隊員は都市部からその地方に住民票を移すことが条件で、14年度には約1600人、17年度には約4900人と増加した。18年の地方創生の基本方針で、24年には8000人まで増やすとうたう。追跡調査では、1~3年の任期終了後に約6割が同じ地域に定住した。