【インタビュー】日産フォーミュラE EVはエキサイティングだ in 香港

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フォーミュラEシーズン5 2018/19
インテリジェントモビリティ 未来に近づく体験 vol.2
雑誌に載らない話vol.286

日産は電気自動車レース「フォーミュラE」への参戦を今季から開始した。参戦する目的や狙いはインテリジェントモビリティの一環だが、ドライバーのブエミ選手から「マシンが第2世代になったことで、乗り換えなしのレースができ、よりフォーミュラカーらしくなった。そうした、技術の進歩は誰にでもわかるし、EVに乗ることを怖がる必要がない、というメッセージが出せるようになったんだ」と答えている。

フォーミュラE第5戦・香港

日産がフォーミュラEに参戦する理由やその目的については、以前、グローバルマーケティングのルードゥ・ブリース氏にインタビューをしている。そこで語られた内容は、「日産が推し進めるインテリジェントモビリティの位置付けとして、フォーミュラEのマシンはクリーンでありながらエキサイティングであり、つまり、市販車を量産するためには、EV車はエキサイティングなクルマだと思ってもらわなければならない。フォーミュラEへの参戦は、そこに焦点を当てた活動だ」と語っていた。

フォーミュラEレースは日産に限らず、続々と自動車メーカーが参戦していることでも注目されている。その理由は、この先のEV化時代に向けて、先端技術開発は必須であり、テストの場としても、フォーミュラEは最適な環境だから、ということができるからだろう。

左)ルーキーのオリバー・ローランド右)セバスチャン・ブエミ

しかし、興行としてレースを見た場合、開発競争とは別のベクトルで運営されているのも事実。観客の立場では見えてこない部分も多い。そこで、オートプルーブは香港ラウンドで日産のモータースポーツダイレクターのマイケル・カルカモ氏、ドライバーのセバスチャン・ブエミ、オリバー・ローランドの両選手にフォーミュラEの難しさや他のレースと何が違うのかなど、テーブルインタビューしてきたのでお伝えしよう。

すべて市街地でのレース

記者:まず第5戦香港ラウンドについて、コースの印象など教えください。

カルカモ氏:今年から日産が参戦するのですごく興奮しています。フォーミュラEはすべて市街地でレースをしますが、ここはトリッキーでしかもすごく狭い。すぐにコンクリートの壁だし、路面には白線がたくさんあって、オイリーで、ダスティで、しかも雨という悪いコンディションです。でも、ブエミ選手は過去に香港で優勝しているのでそのアドバンテージはあると思います」

モータースポーツダイレクターのマイケル・カルカモ氏

ブエミ:「鈴鹿サーキットは1年前と大きく変わることはないけど、フォーミュラEは市街地のレースだから毎年、壁の位置が変わったり、白線が増えたりとコンディションが変わる。だからレース前に歩いてコースの下見を念入りにしているよ。ここは1.8kmともっとも距離が短いレースで、しかもコース幅が狭い中で22台のマシンが走る。だからプラックティスでもクリアラップは取れないし、難しいね」

ドライバーはエンジニアと一緒にコースの下見をし、確認し合う

ドライバーはエンジニアと一緒にコースの下見をし確認し合う

ローランド:「とてもタイトで長いストレートがある。だからスピードコントロールが難しいコースだ。だけど他のサーキットとおなじように、どこでも速く走ることが重要だと考えているよ。昨日はエンジニアと一緒にコースを歩いて、昨年とどこがどうかわったか?白線は?なんて話をしながらコース確認をしてきたんだ」

シミュレーションとは何だ?

記者:フォーミュラEはシミュレーションが重要と言いますが、実際のコースとの照らし合わせはどうやっているのですか?

カルカモ:「レース前にコースを精緻にスキャニングします。そのデータをシミュレーターに移してからシミュレーションしますが、限られた時間なので、難しさはあります。ですが、ルノーから日産になるときに、1年前からミーティングを繰り返し、そうしたデータは共有することでまとまっています。でも全く初めてのコースでは各チームチャレンジングなことになりますけどね」

日産はそのシミュレータードライバーにヤン・マーデンボロー選手が担当し、レース直前、レースガレージのあるフランスでシミュレーションデータを作っている。

テーブルインタビューは国内ジャーナリスト5名で行なわれた

カルカモ氏:「ヤンがシミュレーションを作り、最後はドライバーと一緒にシミュレーターでまとめるという作業をします。シミュレーションソフトは日産が独自に作ったもので、チーム力の差が出る部分でもあります。ドライバーは2日間でシナリオを作らなければなりません。どこで回生してどうエネルギーを使うとかね」

記者:シナリオはどれくらいの数を作るのですか?

カルカモ氏:「とてもたくさん。毎レース違いますし、毎日変わります。昨日と今日では違うというのは当たり前のことで、とにかくたくさん作ります。それほどエネンルギーマネージメントは難しいということです」

白線など市街地ならではの特殊なコンディションもある

記者:ドライバーはシナリオどおりに走っているのでしょうか?

カルカモ氏:「すべてのコーナー、すべてのラップでドライバーは自分で回生を判断しています。シナリオで展開しながら、そのターゲットに合わせるために考えながらエネルギーマネージメントをやっています。ステアリングにあるパドルを握りこむと回生ブレーキがかかり、握る力を入れれば強くかかり、弱めれば回生が少ない。だけど回生はリヤタイヤだけで行なうので、ブレーキとのバランスが難しいんです」

油圧ブレーキは4輪ブレーキバイワイヤで制御され、カーボンブレーキを装備する。が、かなり小径のローターが付いていた。回生ブレーキはリヤだけにかかるということは、コーナリング姿勢を作るための荷重移動には油圧ブレーキも必要で、その切り替えをしつつ、速度のコントロール、姿勢のコントロール、そしてエネルギーマネージメントが必要ということになる。

ブエミ:「レースは1dayイベントで、最初のプラックティスは45分、2回目が30分しかなく、その1時間後には予選が始まります。だから、そのプラックティスではフォーミュラE独特のエネルギーマネージメントをどうやって効率的に電気を使うかということに集中しています。だからコースに関する情報はシミュレーションでしっかり把握しておく必要があるわけで、良いシミュレーションができていれば大きなアドバンテージになります」

カルカモ:「回生パドルを強く握り込みすぎるとタイヤはロックします。それほど強い回生が可能ですが、油圧ブレーキで減速するか、回生ブレーキで減速するか、回生のターゲットがありますから、ドライバーはそれに対してパドルを使うとか、使わないとかを考えながら走っています。例えば1周で1kWの電力を作ろうとしたとき0.8kWつくれるポイントをシミュレーションで作ります。それをドライバーは判断しながら回生ポイントをコントロールしています」

シナリオ通りに走る

記者:「エネルギーマネージメントがうまくいかないとき、ピットから教えているんですか?」

カルカモ:「ドライバーとは常に無線でつながっていますが、ドライバーは各ラップでどれくらいの電力を消費するのかなど、ターゲットを持って走っているので、リアルタイムで消費電力を把握しています。シナリオどおりにいかない部分をドライバーはアクセルペダルでコントロールするわけです」

記者:「アタックモードやファンブーストのタイミングはピットからの指示ですか?」

カルカモ:「アタックモードはすべてのドライバーがもっている権利です。だからシナリオには組み込まれていて、通常はシナリオどおりにアクティベートゾーンを通過します。ファンブーストは5名だけに与えられた権利でとても有利ですが、いつ使うのかは非常に難しいです。すべての権限はドライバーが持っていますが、非常に使い方は難しいです」

記者:「チームランキング、ドライバーランキングも下位低迷ですが、シリーズチャンピオンの可能性はありますか」

カルカモ「まだ、可能性はあるとおもいます。それは、ぶっちぎりのチームがいない、というのが理由でチャンスはあると思う」

決勝レース序盤、日産の新人ローランドがレースを引っ張る

ローランド:「初めての体験なので、勉強している最中です。でもブエミのデータにはアクセスできるので、それで勉強し、1周でどれだけ学べるか、1日でどれだけ学べるか、どうレースメネージメント、エネルギーマネージメントするかを考え、勉強している最中です」

とはいえ、ローランドは第4戦第5戦ともブエミを上回るタイムを記録している。残念ながらリザルトにはつながっていないが、優勝する日はそう遠くないと感じる走りを見せている。実際香港ラウンドもセカンドローからのスタートで、1コーナーはホールショットを決め、序盤はトップでレース運びをしていたのだから。

EVはエキサイティングなマシンだ

ブエミ:「Gen2マシンになってバッテリーが大きく進化し、乗り換え不要になりました。マシンはGen1に比べて20kg程度しか重くなっていないし、見た目もフォーミュラーカーらしくなった。これなら、誰が見ても技術の進化はわかるし、EVに乗ることを怖がらなくていいというメッセージを出せるようになったんだよ」

マシンのモノコック、タイヤ、シャシー、バッテリーは共通パーツだ。開発領域はインバーター、モーター、減速機が自由設計になっている。EVカーのポイントになるインバーター(パワーコントロールユニット)の開発でレースの勝敗が決まると言っても過言ではない。また、そのインバーター制御に組み込むプログラム開発はシミュレーターによって生み出され、ドライバーは現場でマッチングさせながらトップ争いをするという複雑なレースではあるが、アタックモードやファンブーストなど、観客としての魅力もおおいにある。まさにルードゥ・ブリース氏が言う「EV車はエキサイティングなマシンと思われなければならない」を目の当たりにできるのだ。

次戦は2019年3月23日中国・三亜での第6戦。初開催の場所だけにシミュレーション精度がレースを左右するかもしれない。「開発競争」という裏側のテーマと「レース」というファンな要素があるフォーミュラEで、日産はどこまで強くなるのか、「技術の日産」への期待が膨らみ楽しみである。

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