今の先生に必要なものとは?──社会と教育現場をつなぐ「先生の学校」主催者に聞いてみた

先生だけでなく一般の人も参加することができる、グループワーク型イベント「先生の学校」。代表である三原 菜央(みはらなお)さんに、なぜ「先生の学校」を始めたのか、実際にどのような方が参加してるのかなどを聞いてみました。

先生と子どものための「先生の学校」

先生の学校は「子どもたちに新しい視点を提供できる先生を増やし、先生と子どもたちの人生を豊かにしたい」との思いから始まったプロジェクト。ほぼ毎月開催されているトークイベントでは、さまざまなテーマを軸に、いろいろな学校の先生、保護者、一般企業の方などが、職業にとらわれない意見交換をしています。

また、Facebookで教育関係の情報を発信したり、フィンランドなど海外への教育視察ツアーも実施。過去に行われたイベントテーマには「デンマーク生まれの世界一幸せな教育の秘密」「”教える”から”引き出す”教育に変える「質問力」」などがありました。

今回、その様子を実際に拝見するために、2019年1月に平岡慎也さんが登壇した『世界20ヶ国で教育実習をした平岡先生と考える「理想の教育とは?」』のイベントの様子を、まずは紹介します。

フィンランド教育との出会い

平岡慎也さん

イベントの冒頭は平岡さんによる「なぜ20ヶ国も教育実習をしたか」という経緯についてのプレゼンでした。幼少期から始まり、コンプレックスをもちながら大学に進学したことや、その流れで海外の教育に興味をもった話などの話が展開していきました。

ちなみに、平岡さんは、最初にフィンランド、オーストラリア、フィリピンなど20カ国をまわり、そこでその国で行われている実際の教育現場に飛び入りで参加したそうです。国ごとに教育方法や方針の傾向があり、自分自身の考え方をアップデートできるのがよかったとのこと。

今はその経験を活かし、海外での教育現場で感じたことなどを国内の学校で登壇したり、フィリピンやフィンランドで教育実習ができるプログラムの企画運営などをしているそうです。

これからの時代に生きる子どもたちに必要な、3つの力

登壇のあとは、各テーブルのグループワークがはじまります。それぞれの席に置かれていたプリントに「これからの時代に生きる子どもたちに必要だと思う力」を3つ書き出して、その後一緒のテーブルについた方とディスカッションをします。

グループディスカッションが終わったと、何人かがマイクをもち、発表していました。「自己肯定感」「創造的思考」「やり抜く力」の3つを発表する人もいれば「違いを認める力」「仲間を頼る力」「体力」の3つを発表した人もいました。そして平岡さんは「モチベーションを維持する力」「マーケティング力」「読書力」の3つを発表。

イベントの最後では「明日からできる小さなアクション」を各テーブルでディスカッションしていました。

教育現場と社会の架け橋になりたい

「先生の学校」を主宰する三原菜央さん

後日、主催者である三原菜央さんに「先生の学校」について、いろいろと伺いました。

——「先生の学校」を始めたきっかけはなんでしょうか?

三原私は8年間、保育士や幼稚園教諭を養成する専門学校の教員をしていたんです。ある日、生徒の進路相談で「一般企業でオススメの企業を教えて」と相談されたときに、何も提案できなかったんです。その生徒にオススメの保育園や幼稚園、施設については答えられても、一般の企業のことや社会のことがわからなかった。そこから「私が一般的な社会を知らないために、生徒の機会損失を生んでしまっているのでは」と思うようになり、教員をやめていくつかの職を転々としながら「社会を知っている先生を増やしたい」「社会と教育現場をつなぐ架け橋になりたい」と考えて、先生の学校を立ち上げました。

——会場には先生だけでなく、お子さんを連れたお母さんがいたり、いろいろな方がいました。主にどんな方が参加しているんでしょうか?

三原半数は学校関係者で、幼児保育・小・中・高・大学の先生、スポーツコーチや塾講師など。もう半数は子育て中の親御さんだったり、企業にお勤めの方、教員を目指す実習生もいます。お子さん連れでも安心して参加できるよう、会場の端では保育系の学校に勤めていたころの卒業生が、ボランティアで子どもの相手をしてくれています。

——いろいろな方が参加される中でおもしろかった反応はありましたか?

三原ある企業にお勤めのマーケティング担当の女性と数学の先生が同じグループになったことがあるのですが、数学の先生が「社会では役に立たない」と思っていた高校の数学を「マーケティングではすごく使うんですよ!」と言われて「社会でこんなふうに役立つのか」と顔色が変わって活き活きしていたのを見たときは、これまで活動を続けてきてよかったなと思いました。先生たちも価値観の違う方の話を聞くことで視野が広がり、明日へのモチベーションにもつながるのだと感じました。

自分が納得した情報を届けたい

——毎月行われるイベントはどうやって決めているんですか?

三原イベントは「先生が教育現場では学べなさそうなこと」というテーマで考えていて、主に「エコノミー教育」「アントレプレナー教育」「キャリア教育」「海外の教育」などを軸に考えています。また、私が興味をもったことや、「いいな、聞きたいな」と思った人に登壇を依頼するようにしています。そのほうが、自信をもってオススメできるからです。

——なるほど。今回イベントを拝見したときに、とてもスムーズに回っていると思ったのですが、今まででイベントで失敗したこととかあるのでしょうか?

三原失敗したと言えば、一番最初のイベントですね。イベントの主催初挑戦にも関わらず、500人規模の会場を借りてしまい、実際に集まったのが160人。今思うとそれでもすごい人数だとは思うのですが、当時は自分よがりなイベントをつくってしまっていました。だからこそ至らないことが多く、観覧後のアンケートでも「本当にこのイベントが教育に役立つのかわからない」という声ももらってしまったので、それは失敗だったなと思います。ただその失敗があったからこその今なので、いい経験になったと思っています。

——今までも何度かイベントをやられていると思うのですが、その中で、とくに印象的だったものはありますか?

三原毎年9月に行ってる周年のイベントですね。そのイベントでは、先生たちに現在の取り組みについて10分間のプレゼンをしてもらうのですが、教育関係以外の人に向けてプレゼンをする機会というのはなかなかないので、先生にとってもいい刺激になりますし、教育関係以外の方にとってもいい刺激になるので、今後も毎年やっていきたいなと思っています。

——それは、とても大切なことですね。ところで、イベントでいつも心がけていることはありますか?

三原とにかく「また来たい」と思える安心安全で、あたたかい場作りをすることです。また、イベントの最後には、毎回のイベントでの学びを生かし「明日からできるスモールステップはなんですか?」と聞くようにしています。それに答えてもらうことで、学びが行動がつながります。そういったことを毎回のイベントで心掛けています。

ツアーをきっかけに生まれた、切磋琢磨しあえるコミュニティ

——そういえば、フィンランドの教育視察ツアーもされているんですよね?それを始めてよかったと思うことはなんですか?

三原このツアーは、他(海外)を見て自(日本)を知る機会にしていただきたいと思い、始めた企画です。フィンランドは日本と異なるアプローチで学力の高さを維持している国です。もちろん国の歴史も、人口も異なる国ではありますが、日本にとって参考になる考え方や在り方が存在しています。そんなフィンランドの教育をリアルで見てほしいと思い、フィンランドの保育園から小学校、大学まですべての教育機関を視察できるツアーにしています。始めてよかったことは、ツアー終了後もつながる参加者同士のコミュニティが活発に動いていることです。

外の世界に頼ってほしい

——最後に、今後参加をしてみたいという方に、メッセージを。

三原『先生の学校』は、子どもたちだけでなく先生たちご自身の人生を豊かにすることにコミットしていきたいと思っています。そのためには先生たちにとってのサードプレイスを目指していきたいと思っています。興味が少しでも湧くイベントがあればぜひ参加してみてください。そこで出会った人と関わることで、人生や教育のヒントになったり助けをもらえたりするのではないでしょうか。

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先生、保護者、企業の人が、1つのテーブルでディスカッションできる機会はとても珍しいでしょう。新しい視点の話を聞くことで、自身の生活や教育の取り組み方のアップデートややる気の向上につながるかもれません。

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