ライター・清藤秀人が紹介するオードリーが愛したパリ!
オードリーとパリは切っても切れない間柄。1950~60年代当時、アメリカ人にとって、また、もちろん日本人にとっても遠い街だった花の都・パリを、映画の舞台として紹介するのに、ハリウッド女優の中でも特にヨーロッパの雰囲気を漂わせるオードリーほどぴったりの案内人はいなかった。「ローマの休日」(53)以来、オードリー映画はロケーションムービーのパイオニアでもあったのだ。
パリと言えば、エッフェル塔。「パリの恋人」(57)ではオードリーが演じるジョーとフレッド・アステア扮するカメラマン・ディック、ケイ・トンプソン演じるファッション誌編集長・マギーが、挿入歌「ボンジュール・パリ」を歌いながら塔に上り、展望台で曲を歌い終える。3人の立ち位置が次々と入れ替わる演出がメロディーにマッチして、「さあここれらパリを巡るぞ!」という気分が一気に盛り上がる。「パリで一緒に」(64)でウィリアム・ホールデン扮する脚本家のリチャードが滞在するホテル・ラファエルのテラスからエッフェル塔が望めるし、彼が執筆中の脚本のタイトルは「エッフェル塔を盗んだ娘」。おまけに、リチャードとオードリー演じるガブリエルが向かう仮装パーティーの会場が、これまたエッフェル塔ときている。こうなると、まるでエッフェル塔が主役に思えてくる。
そして、芸術の殿堂はオペラ座。「パリの恋人」で写真家のリチャード・アヴェドンが監修した雑誌の撮影シーンの中でも、ジョーが貴婦人のようにつんとした表情でグリーンのガウンを翻すのは、オペラ座の階段の途中。その瞬間、色彩が変化する劇中でも白眉の場面だ。「昼下りの情事」(57)でワーグナーのオペラ“トリスタンとイゾルデ”が上演されるのはオペラ座だが、映画の主な舞台はゲイリー・クーパー扮する名うての中年ジゴロ・フラナガンが定宿にしているホテル・リッツのスイートルーム。オードリーがコケティッシュに演じるヒロイン、アリアーヌは、たびたびホテルにやって来て、ありもしない恋愛話でフラナガンの気を引こうとする。2人が昼間だけのデートを重ねる場所が、このホテル・リッツなのだ。
「シャレード」(64)ではオードリー扮するレジーナとケーリー・グラント演じるピーターが、消えた50万ドルの行方を追いながらパリ中を散策する。シャンゼリゼ沿いの公園で人形劇を観て、ノートルダム寺院を脇に見てセーヌ川沿いを散歩しながら、レジーナは出店で買ったばかりのアイスクリームをピーターのスーツにぶっかけてしまうというもったいないクライマックス。ピーターが真犯人と勘違いしたレジーナはサンジャック駅からメトロに乗ってパレ・ロワイヤル駅で下車。追いすがるピーターを背後に感じながら、駆け足で向かうのは本当の真犯人であるバーヒロミュー(ウォルター・マッソー)が待ち受ける街のランドマーク、パレ・ロワイヤルだ。
サルディニア、コペンハーゲン、ロンドン、クラクフ、ミュンヘン、ニューヨーク、そして、パリで撮影された「華麗なる相続人」(79)も、実はロケーションムービーとしての魅力が満喫できる作品。オードリー扮するエリザベスが食事中に怒って出て行くのは、パリの有名レストラン“マキシム・ド・パリ”。オードリーがプライベートでもよく通っていたパリ8区にある知る人ぞ知る名店だ。
【オードリーが愛したパリ】
「昼下りの情事」
「パリの恋人」
「シャレード」
「パリで一緒に」
「華麗なる相続人」
文/清藤秀人