【MLB】東京Dで見た極めて異例なイチローの姿 巨人原監督の思い「でも、イチローだぞ」

マリナーズ・イチロー(左)と巨人・原辰徳監督【写真:Getty Images】

記憶にない、打撃動作を交えて意見交換するイチローの姿

 マリナーズのイチロー外野手は18日に東京ドームで行われた「2019 MGM MLB日本開幕戦 プレシーズンゲーム」巨人戦に2試合続けて「9番・右翼」で先発出場した。二塁走者を釘付けにする三塁への“レーザービーム”でファンを魅了したが、依然バットは湿っており24打席連続無安打のまま、20日に行われるアスレチックスとの開幕戦を迎える。

「ヒット1本打ちたかったけど……。それは残念でしたね」

 試合後に素直な気持ちを言葉にしたイチローが、打開の緒を探し求めるように真剣な眼差しで接したのが巨人の原辰徳監督だった。

 巨人の打撃練習中のこと。イチローと原監督がお互いに笑みをこぼしながら会話を弾ませていた。2日続けての光景である。しかし、数分の“談笑”では片付けられない極めて異例なシーンがそこには織り込まれていた。時折、身振りを加えるイチローに、原監督はバットを持ち左足を少し上げて右足に重心を乗せながらイチローに何かを伝えていた。

 フィールドで打撃の動作を示しながら相手と意見交換をするイチローの姿を見た記憶はこれまで全くない。ましてや「右打者のことはよくわかりません」と言うイチローがかつての右のスラッガーである原監督に聞くのだから、まさに“千載一遇”のシーンと言えよう。

 2人のやり取りが始まる少し前、原監督に話を聞く機会があった。期せずして、話題は2度目の世界一の座をつかみ取った10年前のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)になった。打撃不振で苦しんでいたイチローがサンディエゴでのキューバ戦で第2ラウンド初安打を放った試合だった。第4打席で待望の初安打を記録。13打席ぶりの快音で吹っ切れ次の第5打席でもう1本を放つ。話の肝は3打席目のバント失敗だった。

 イチローは一塁に走者を置いた終盤の場面で、セーフティー気味に試みたが、転がせずにアウトになった。ベンチに戻ったイチローに対して、原監督は「バントはしなくていい。俺はイチローが見たいんだ」と語りかけたという後日談があったが、原監督はこれを掘り下げた。

WBCの思いをなぞった原監督「でも、イチローだぞ。イチローなんだぞ」

「フォア・ザ・チームの気持ちはわかる。でも、イチローだぞ。イチローなんだぞ。打って出るのを皆が見たいんだ。あの時、決して強くは言わなかった。でも、監督からすれば、あの一つのアウトで戦術が変わってくるんだ。イチローには担うべき、イチローだから担える役割というものがあるわけだから」

 イチローの打撃について一切言及しなかった原監督が10年前の思いをなぞる。その心根を推し量る必要はないだろう。

 一方で、一塁側の巨人ベンチから試合を見つめていた吉村禎章打撃総合コーチは、イチローの打撃をこう評した。

「私には、彼の中でもがいているというような雰囲気はまったく感じられないですね。どんな形でも打てていたバッター。周囲の見るような今こういう(悪い)状態だというふうに、彼が考えているとは私にはないように映りますけどね」

 24打席連続無安打、打率.065。イチローは心の中でもがいていないのか――。同コーチは言う。「ベンチから守備に就くまでの走る姿はいいですね」。

 18日のプレシーズンゲーム第2戦、1回裏の守備で右翼へ向かうイチローの背中を追う映像が中堅後方の大画面に映った。背筋は伸び下半身で推進していく姿を見たある日本人スカウトは言った。「選手の気持ちは背中に出る。僕は後ろ姿を大切に見てます」。プロの眼にも映る「折れない心」というものがあるのだろう。

 20日の試合に向けてイチローの先発出場を明言したスコット・サービス監督は「彼の開幕に私は胸を躍らせている。バッティングはキャンプでふるわなかったが、数日経てば回復するのがイチローだ。楽しみにしている」と期待を寄せる。

「気持ちで打ったことは1度もありません」

 母国で迎える日本開幕戦。かつてこう喝破したイチローは20日、これまでにない真価を問われる打席に立つ。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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