できなかった卒業

 3月は卒業シーズン。小中学校で、高校で、それぞれの学業を終えた子どもが学びやを巣立つ。思い出の詰まった卒業アルバムを受け取り、晴れやかな顔で卒業式に臨む▲だが、その日が来なかった生徒がいる。今月初め、長崎市の私立高の卒業式では、男子生徒の遺影を持った家族が代わりに出席した。男子生徒は約2年前に自殺した▲学校が自殺の原因究明のために設けた第三者委員会は「同級生のいじめが主たる要因」と報告書をまとめたが、学校側はそれを不服として受け入れていない▲熊本の県立高では、いじめの被害をほのめかす遺書を書いて自殺した女子生徒の写真が、卒業アルバムから外された。遺族の抗議を受け、学校側は女子生徒が写った写真を空きページに貼ってアルバムを卒業生に配布した▲同じ学びやで同じ時間を過ごしてきたはずなのに、自ら死を選んでしまうほどに追い込まれてしまった子どもがいる。最悪の事態を防げなかったばかりか、遺族をさらに悲しませる学校側の対応は許されるものではないだろう▲入学して、充実した学校生活を送って、無事に門出の日を迎える。だがもしそこに、いるはずだった仲間の姿がなかったならばどんな思いがするだろう。誰もが祝福できるような卒業式となることを願わずにはいられない。(泉)

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