「リレーコラム」NCAA目指す日本の若者たち 八村、サニブラウンら新しい潮流

バスケットボール男子の全米大学体育協会(NCAA)1部、テキサス農工大戦でシュートを狙うゴンザガ大の八村塁選手(左)=2018年11月(USA TODAY・ロイター=共同)

 若者たちが躍動する現場に赴くと、時代を変える足音が聞こえてくる。

 男子バスケットボールでゴンザガ大の八村塁、陸上男子短距離でフロリダ大のサニブラウン・ハキーム。バレーボール女子で高校時代に日本代表経験がある南アイダホ大の宮部藍梨(今年秋から強豪ミネソタ大に編入)。

 他にもサッカーや女子バスケットボール、テニスなどの競技で実績を認められ、米国の大学に奨学金付きで進学する学生アスリートが目立つ。

 世界に通用する実力が認められた日本の若者たちが、全米大学体育協会(NCAA)1部の強豪校に進むことが新しい潮流になっている。

 八村もサニブラウンも「レベルが高い環境でトレーニングや試合をできて、自分の成長につながっている」と声をそろえる。

 

 NCAAは100年以上の歴史がある米大学スポーツの統括組織。1部から3部まで1000以上の大学が加盟し、文武両道の推進、学生アスリートの保護を進めるほか、近年はテレビ放映などのビジネスを急成長させ、プロに匹敵する収益力を誇る。

 昨年、日本で社会問題となった日大アメリカンフットボール部の悪質な反則問題のようなケースについても、NCAAでは専門の委員会が調査をして処分を決め、学生アスリートの保護を最優先とする。

 

 日本の高校生がNCAAの大学に進む際の最大の障壁は英語力だ。

 そのため、プレップスクールと呼ばれる全寮制私立校を1年挟んで進学するケースも珍しくない。

 日本人2人目のNBAプレーヤーとなった渡辺雄太は香川・尽誠学園高から、コネティカット州のセントトーマスモアスクールへ1年通い、ジョージワシントン大に進んだ。

 テニスの錦織圭(日清食品)らが練習拠点を置くIMGアカデミーも、巨大な敷地内に中学・高校の教育機関があり、スポーツ推薦での大学進学を目指す“予備校”の機能を備える。

 現在1200人を超える10代の学生が在籍中で、世界中からさまざまなスポーツの才能が集まる。

 IMGアカデミーにはバスケットボール男子日本代表候補にもなった経験がある16歳の田中力が在籍。「2年後にNCAA1部のトップ大学に進学して、将来はNBAプレーヤーになりたい」と、八村や渡辺といった先輩が歩む道を追いかける。

 米国の大学スポーツ界は予算も潤沢でプロに負けない施設やスタッフなどの環境が整った大学がある一方で、学生活動の一環というレベルまで幅広い。

 英語力と高校時代の成績が一定のレベルをクリアして、サッカーやバレーボール女子、ソフトボールなど日本の競技レベルが高いスポーツであれば、日本の高校生でも奨学金のオファーをもらえる可能性はある。

 米大学関係者の中には「日本の高校生の競技力の高さは知っている。英語力という壁を突破すればNCAAでプレーをすることは可能」と話す人もおり、日本からの挑戦を望む声は多い。

 日本のスポーツ界の空洞化を嘆いても、世界を目指す若者の海外流出は今後も続くだろう。

 大リーグ、欧州サッカーにしても「海外組」が「国内組」のレベルを引き上げてきたのは事実。NCAAを経由してプロアスリートやオリンピアンへという流れは、これからますます大きくなるだろう。

吉谷 剛(よしたに・つよし)プロフィル

テレビ局勤務を経て、2002年共同通信入社。プロ野球、五輪取材など幅広く担当し、テニス・卓球の球技系が専門。14年ソチ冬季五輪では現地支局長を務め、15年からニューヨーク支局に勤務し、大リーグや北米開催のスポーツをカバー。北海道出身。

© 一般社団法人共同通信社