JOC竹田会長 語らなかった〝やめどき〟 「やわらの系譜」の行方

2014年2月、ソチ五輪の「ジャパンハウス」で開かれたレセプションで、言葉を交わすIOCのバッハ会長(左)とJOCの竹田恒和会長=ソチ(共同)

 2020年東京五輪・パラリンピック招致を巡る不正疑惑でフランス司法当局から贈賄容疑で捜査を受けた日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長が、任期満了となる6月27日で会長を退任すること、合わせて国際オリンピック委員会(IOC)委員を辞めることを明らかにした。2カ月前の記者会見で竹田氏は「潔白を証明したい」としながら質疑に全く応じず、わずか7分間で席を立ったことが猛烈に批判された。今回はJOC理事会後の「囲み取材」というかたちで16分間対応した。しかし、疑惑についてはフランス当局による調査中という理由で具体的に何も語らず、退任を決意した時期も何度尋ねられても答えようとしなかった。(共同通信=柴田友明) 

 ▽後退したスタンス 

 すでに会長を退くことが既定路線として報じられていたためか、2カ月前と比べて報道陣に占める海外メデイアの数はぐっと減った。

 竹田氏は前回も招致疑惑について「潔白」を主張している。用意された紙を読み上げるかたちで、①契約について意思決定プロセスに関与していない②昨年12月10日にパリで(フランス司法当局の)聴取を受けて潔白を説明③(JOC設置の外部調査チームの)報告書では、支払いは適切な対価、日本の法律において違法性はないと結論―と述べた。2カ月たって、今回はこれまでの理由をあらためて挙げることもせず、語ったのは自らの「潔白」とフランス司法当局が「調査」中で話せないということだった。前回より後退したスタンスとなった。

 「来年の東京大会を控えて、このように世間を騒がせて大変心苦しい」「JOCの将来を思うと時代を担う若いリーダーに託して、東京オリンピックを通じて日本の新しい時代を切り開いてもらうことがもっともふさわしい…」。冒頭、竹田氏が語った退任理由は、こうした五輪招致疑惑について直接触れることのない極めて形式的な内容だった。 

 ▽あいまいな回答 

 退任の決断の時期についても、竹田氏の回答はあいまいだった。そのため以下のようなやりとりが続いた。 

 ―退任の意向を固めたのはいつか?

 「定年を迎える前だったし、慎重に考えていた。早いうちに自分の中で決めて、この日に話すことにしていた」 

 ―その時期は、日付は?

 「日付というのは覚えていません。大変早い時期に決心した」 

 ―それは今年に入ってからか。1月の会見の前なのか、後なのか?

 「時期ははっきり覚えていません。いろいろ自分の中では考えを張りめぐらせていましたから、私が定年を迎えるということは、ずっと(心の)中で葛藤もありましたから」

  ▽退任を決断させたのは… 

 1月の記者会見で質疑に応じなかった理由について「あの時は私からみなさんに伝えるべきと思い、早く記者会見するように考えて(事務方に)指示した。多くのことを語り、質問にも答えるつもりだったが、いろんな方の意見で質疑に応じないことに決まった。私としては大変不本意なかたちで終わって、みなさんには誤解を招いたことは残念だった」と語った。竹田氏本人は1月15日の会見対応に乗り気だったが、IOC側の強い意向から、同日未明に質疑に応じないことを決めたと報じられている。

 バッハ会長らIOC側の意向をくんだ結果、竹田氏は自らの進退を決めたと指摘される。「バッハ会長には何回も連絡していますし、きのうもおとといも電話で話した」。3月19日の囲み取材で、竹田氏はバッハ氏と緊密に連絡を取り合ってきたと述べた。IOC側は招致疑惑について「推定無罪の原則は優先される」という立場を取りながらも、来年の東京大会にダメージを与えかねない事態を忌避するため、竹田氏にメッセージを伝え続けてきたことは間違いないと思われる。

次期会長として名前が挙がる3人。左から、山下泰裕氏、田嶋幸三氏、橋本聖子氏

 竹田氏の表明を受けて、IOCが「決断を最大限に尊重しながら受け止めている。五輪運動を守るために取った一歩だ」との談話を発表したのも象徴的なことだ。筆者の取材ではこの間、日本側の五輪関係者が直接会って、バッハ氏の意向を確かめようとしたが、敢えて会わなかったケースもあった。

 竹田氏が「やめどき」を語らなかったのも、IOCとのそうした具体的なやりとりを伏せたいという気持ちがあったからではないだろか。

 後任が有力視されるのはJOC選手強化本部長の山下泰裕氏だ。東京大会を経た後を前提に、元々待望論があった。柔道の創始者、嘉納治五郎氏が初代JOC会長、日本人初のIOC委員として五輪活動に熱心であったことを考えれば、その「やわらの系譜」をひく山下氏の少し早めの「登板」にうなずく人は多いだろう。山下氏の対応に注目したい。

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