「そのビジョンは生きているか」:組織変革WS

SB2019Tokyo

ワークショップ「分断を乗り越えるサステナブルな組織づくりとは?」

「サステナブル・ブランド国際会議2019東京」の1日目に、ワークショップ「分断を乗り越えるサステナブルな組織づくりとは?」が行われた。SDGs(持続可能な開発目標)などを指標に掲げ、社会課題の解決をビジョンに定める企業や組織が増えてきた。ビジョンを「きれいごとで終わらせない」ために、どのような組織変革が必要なのか。(オルタナS編集長=池田 真隆)

このワークショップに登壇したのは、組織変革を専門にするコンサルタントのSYSTEMIC CHANGE・東嗣了(ひであき)代表と国内外の組織の関係性をコーチングしてきた実績を持つウエイクアップCRRジャパンのグローバルファカルティ・森川有理氏、児童労働に取り組むNPO法人かものはしプロジェクトの本木恵介共同代表の3人。

冒頭では、3人それぞれが普段から心がけている組織づくりについて話した。同じ組織に属していても意識が異なるスタッフどうしをどのようにして一枚岩にしていくのか。東氏は、「ロジックでは限界がある」として、組織を変革するには「対話に可能性を感じている」と主張した。

一方、インドなどの途上国で活動してきた本木氏からは、意識が異なる人どうしがコミュニケーションを取ると、そのたびに衝突が起きて、周囲のスタッフの士気に影響が出てしまうと指摘。それを聞いた森川氏は、「大きな目的は同じなのになぜ対立してしまうのか。葛藤も含めて『心の体験の共有』が必要」と話した。

東氏は、「人の心は言語化できない。では、組織内で言語化できないものを話し合うにはどうするのか」と前置きし、ワークショップへ移行した。

3つの「国」に分かれ、意識をジェスチャーで表現

ワークショップの設定はこうだ。約40人いた参加者は同じ会社に属する社員。あるとき、社長から「SDGs達成に向けてイノベーションを起こそう」と指令が出た。この指令を受けた参加者は、次の3つのうちどのタイプに属するのか考えた。

・リーパー:先駆者的存在、社長の指令に率先して取り組む
・ブリッジビルダー:架け橋的存在、社長の指令の有効性を理解するため観察している
・トラディショナルホルダー:伝統の守り人的存在、指令に対して保守的

次に、それぞれのタイプに分かれた参加者どうしで、タイプを象徴するジャスチャーを話し合った。リーパーは、「この指止まれ」という意図で指を突き上げるポーズ、ブリッジビルダーは、ゆらゆらと揺れ動くポーズ。リーパーとトラディショナルホルダーの間で揺れ動く様を描いた。トラディショナルホルダーは腕を組んで、背を向けた。

それぞれのジェスチャーを見たら、全員でほかの「国」に移動した。ここで「国」と表現しているのは、あえてである。タイプごとに分かれたコミュニティを「国」と表現することで分断を意識させた。

この移動は、引っ越しではなく、「旅行」である。そのため自分の価値観は出さないで、その国を楽しむことがポイントだ。例えば、リーパーの国に訪れたときにはこのようなやりとりが交わされた。

リーパーの住民から自分たちの特徴を説明してもらい、その後、普段抱えている葛藤やジレンマを聞いた。

「この国では、これまでなかったことをおもしろく活用するよ。食べ物があったらとりあえず口に入れてみる感じ」。一方、「でも、失敗をしたときに、こんなに敵がいたのかというくらい叩かれることが怖い」と葛藤も明かされた。

リーパーの住民からの告白を受けて、旅行者からは、「タイプが異なる人が来てもすぐに受け入れてくれそう」「人生が毎日楽しそう」――などの意見が出た。

だが、「一体感がありそうだが、対立もしそう」「後ろを振り向いたら、誰もいないのではないかという不安がいつもつきまとっている」などの意見も出た。

そこで、ブリッジビルダーから来たある旅行者が、「リーパーは早く進んでいくから、後ろで地固めする人が必要なのではないか」と提案した。続けて、「ぼくたちはリーパーとトラディショナルホルダーに挟まれて、意見を持っていないように見えるが、意見を一本化していくことがどれだけ難しいのか分かってほしい」という訴えも出た。

すると、トラディショナルホルダーの旅行者からは、「私たちにはいつも保守的で否定的という印象を持っていると思うが、リーパーの新しい価値観に挑む気持ちは背中で理解していることを分かってほしい」という声もあがった。

このような「国」への旅行を3回繰り返した後、全員で集まり、全員を表現するジェスチャーを話し合った。すると、輪になって肩を組んだ。今回のワークショップでは、言語化できない気持ちや意識をジェスチャーにすることで、コミュニケーションを取り、分断を乗り越えた。

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