【MLB】イチローは三振後に睨み返した… 元ロッテ黒木知宏氏が明かした2人の“秘話”

引退会見で質問に応じたマリナーズ・イチロー【写真:Getty Images】

17連敗を喫した一戦で対峙「僕の気持ちをちゃんと受け止めてくれているのかなと」

 マリナーズのイチロー外野手(45)が、21日の東京ドームで行われた「2019 MGM MLB日本開幕戦」第2戦で現役引退を表明した。その試合が始まる約1時間前だった。球場に隣接するレストランでイチローへの思いの丈を語ってくれたのが、かつてイチローと熱い対決を演じてきた元ロッテのエース黒木知宏氏(45)だった。

 黒木氏が真っ先に話題に挙げたのが、プロ野球史上初の17連敗を喫した1998年7月7日のオリックス戦だ。連敗阻止を託された黒木氏は9回2死から同点2ランを浴びマウンドに崩れ落ちた。その回の先頭打者だったイチローと真っ向勝負し、空振り三振に仕留めている。厄介な打者を抑えた時「勝てる!」と心の中で叫んだ黒木氏に対し、イチローは打席から引き上げる際、眼光鋭い視線で睨み返してきたという。黒木氏が振り返る。

「僕は先頭のイチローを取った時に、よし勝てる!と思いましたよ。彼が本気でこっちに向かってきてくれた気持ちが睨み返すということになったと思う。実際本人がどう思ったかわからないですけど、僕の気持ちをイチローはちゃんと受け止めてくれているのかなという感じはしましたね」

 この勝負を境に、2人は次第にお互いを認める仲へとなっていった。

 アリゾナのキャンプ地ではこんな場面にも遭遇した。

 取材で来ていた黒木氏だったが、全体練習開始の少し前に出てきたイチローに会釈をするだけで、話しかけようとはしない。この光景に余計な想像を巡らせたが、黒木氏には考えがあった。

「いずれそういう時が来たらゆっくり話をしてみたい」

「ぶっちゃけ、会話はしてないです。彼にとって今年のキャンプが野球人生を賭けるほどのものになるのは分かってましたから。何かを聞こうとして気持ちに水を差すようなことはしたくなかった。解説者の立場が彼の環境を邪魔したりするのを気にしました。到着した日と帰る日だけをクラブハウスで伝えたくらいです」

 奇しくも、21日の試合後に行われた引退表明会見の結びで、イチローは異国での挑戦の日々から得た心の軌跡を言葉に凝縮している。

「メジャーリーグに来て、外国人になったことで人の心を慮ったり人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れてきました。孤独を感じて苦しんだこと、多々ありましたよ。ありましたけど、その体験は、未来の自分に取って大きな支えになるんだろうと、今は思います」

 かつての勝負で育んだ鋭敏な感覚は、時の経過とともに人の心の懐に触れる心眼を育んだ。黒木氏は大きな目を細めて言った。

「いずれそういう時が来たらゆっくり話をしてみたいなと思います」

 図らずも、「その時」は話を終えた数時間後にやってきた。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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