北朝鮮の空軍基地で大規模火災…金正恩氏の不在時、現場緊張

北朝鮮の金正恩党委員長はベトナム・ハノイでの米朝首脳会談のために、先月23日から今月5日まで、北朝鮮の最高指導者としては異例の長期に渡り、首都・平壌を留守にした。国内では厳戒態勢が敷かれていたはずだが、そんな最中、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の空軍基地で大規模火災が発生したと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

大規模火災が発生したのは、東海岸の咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムン)市から北東に10キロに位置する、徳山(トクサン)飛行場だ。同飛行場には、空軍の第2航空師団本部が置かれている。

火災は、金正恩氏が平壌を発って約7時間後の先月24日午前2時ごろに発生した。その直後の午前2時10分、最高司令部命令第6xxx号が総参謀部に発令された。

最高司令部は戦時に設置、運営される組織だ。平時には朝鮮人民軍総参謀部作戦局(2処)が、最高司令官(金正恩氏)の命令執行に必要な実務を担当する最高司令部処の機能を果たしている。

また、総参謀部6処は空軍作戦を担当していることを考えると、第6xxx号という命令の番号は、総参謀部作戦局が6処に対して下したものと推測される。

空軍司令部は、飛行場の状態の把握を行い、最悪の場合には装備を平安北道(ピョンアンブクト)の价川(ケチョン)飛行場に退避させるよう指示した。

徳山航空司令部責任イルクン(幹部)は、火災発生直後に現場に到着し原因の把握に当たった。平壌郊外の中和(チュンファ)にある朝鮮人民軍空軍司令部の責任イルクン(幹部)、総参謀部作戦局、訓練局など関係部署の指揮官も、空軍のヘリコプター2機に分乗して現場に急行した。

近年の朝鮮人民軍においては、このような極めて迅速な対応自体が異例のものだとされる。金正恩氏が国を留守にしている間、軍がいかに緊張感を持っていたを示すものと言えよう。同時に、特別警戒期間であったことも関係しているだろう。

北朝鮮は重要な政治的行事がある時期には、住民の移動を厳しく統制するなど厳戒態勢を敷く。今年は、光明星節(2月16日、金正日総書記の生誕記念日)、米朝首脳会談、国会にあたる最高人民会議の代議員選挙(3月10日)などがあり、先月初めから特別警戒期間に突入している。

そんな時期に事件、事故を起こせばクビが飛びかねない。それを恐れた軍関係者が迅速に処理したものと思われる。

今回の火災の原因だが、飛行機の整備を担当する少佐の落ち度による失火であることが判明したが、金正恩氏の不在時に起きたことを重く見た上層部は、綿密な調査のために最高司令部軍事規律検閲組を派遣した。少佐は厳罰を免れないだろう。

北朝鮮では、たとえ故意ではなくても、重要施設が火災により重大なダメージを負った場合、責任者が重罰に問われることがある。昨年8月中旬に北朝鮮の国営放送・朝鮮中央放送の社屋で起きた火災では、複数の責任者が処刑されたとの情報がある。

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