原発避難者原告、茅ケ崎で講演 「司法はリスク直視を」

「横浜地裁判決は、原発事故の最大の問題である放射線被ばくの健康リスクに向き合わなかった」と語る村田弘さん=茅ケ崎市役所

 東京電力福島第1原発事故で福島から神奈川に避難し、国と東電に損害賠償を求めた訴訟の原告団長を務める村田弘さん(76)=横浜市旭区=が23日、茅ケ崎市役所で講演した。事故から8年。村田さんは「司法は、原発事故の最大の問題である放射線被ばくによる健康リスクの問題には向き合っていない」と訴えた。

 村田さんは事故後、自宅のある福島県南相馬市小高区から、次女夫婦を頼って横浜へ避難。2016年に小高区は避難指示が解除されたものの、かつての田園は除染で出た土の仮置き場に。自宅近くの農園からは、国の定める「指定廃棄物」の基準を大きく上回る数値が検出され、村田さんは「帰りたいが帰れない」と話す。

 訴訟で、原告弁護団は「原発事故の最大の問題は放射性物質の放出であり、被ばくの健康リスクこそが被害認定の根本に関わる」として立証に力を注いだ。しかし、2月の横浜地裁判決は「放射性物質が地域に与える影響は、避難指示ないし要請の有無によって判断すべきである」とし、原告の訴えには向き合わなかった。

 村田さんは「国は一方的に避難指示の区域を決め、地域を線引きし、賠償基準で避難者を分断した。司法は国の線引きを容認してしまった。裁判で最も残念な点で、今後の一番の課題だ」と強調した。

 判決後、国、東電ともに控訴し、東京高裁での闘いが続く。かつて全国紙に勤務した村田さんは記者時代に取材した公害問題の訴訟と原発訴訟を重ね、「国は問題を隠そうとし、隠せなくなると問題を矮小(わいしょう)化し、被害の賠償を狭めようとする。訴訟を通して、この国のやり方に歯止めをかけたい」と語った。

© 株式会社神奈川新聞社