映画『翔んで埼玉』を見て、埼玉に興味を持ったら読む本

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映画『翔んで埼玉』が2月22日(2019年)の公開以来、埼玉県はもちろん、全国的に大ヒットしている。なにかとディスられることの多かった埼玉を極限までディスったパロディー映画だが、なぜかツボにはまったらしい(特に埼玉県民)。

これまでの生涯で二度、埼玉県民になったことのある評者だが、二度とも正直いい印象を持てないまま県外に転居した。そのため埼玉にかんする基礎知識があまりない。上記映画のヒットを機会に少し勉強してみようと図書館から借りてきたのが、本書『埼玉「地理・地名・地図」の謎 意外と知らない埼玉県の歴史を読み解く!』(実業之日本社)だ。超長い題名だが、シリーズで東京、大阪、京都、神奈川など各都道府県版が出ている。初めて知ることの多い埼玉だが、評者が興味を持ったところから紹介してみよう。

かつて21の県があった

最初のページから驚かされる。なんと「埼玉県はかつて二一の県で成り立っていた!?」というのだ。明治の廃藩置県で複数の藩がなくなり、一つの県になったことは知っているが、21は多すぎるのではないか。

廃藩置県の前、慶應4年(1868年)明治新政府は旧幕府領を県とした。埼玉県域では、3分の2が幕府の直轄地や旗本の領地だったため、秩父郡を中心とした岩鼻県、入間、高麗郡を中心とした韮山県など多くの新しい県が出来た。明治4年(1871年)の廃藩置県で旧藩は川越県、忍県、岩槻県、浦和県となり、先の県と合わせると現県域にじつに21もの県が置かれたという。以後離合集散を経て、明治9年(1876年)に熊谷県が解体され、旧入間県が埼玉県と合併、今日の埼玉県となったそうだ。

人気テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」(日本テレビ系)が先日、埼玉県を特集していた。その際、埼玉県民は、県を「南と北」あるいは「東と西」に二分割しているという実態(組み合わせると4つ)が紹介された。小さな県なのに、と思うが、江戸時代以来まとまりのない地域だったことを知ると納得できる。

ちなみに埼玉の地名の発祥は行田市大字埼玉の「埼玉(さきたま)村」に由来する。同地が武蔵国多摩郡の奥に位置することから「前(さき)多摩」「先多摩」と呼ばれるようになり、転じて「埼玉」になったという説も。

もともと岩槻町(現さいたま市岩槻区)に県庁が置かれることが内定していたが、岩槻に大きな建物がなかったため、旧浦和県時代に使っていた庁舎があったので、浦和に仮置きしたのが、現在まで続いている。

ところが、県の中央部の熊谷への移転運動が二度あり(一度は県議会で移転案が可決)、さらに戦後は大宮への移転が県議会の特別委員会で採決され、浦和28票、大宮22票、無効5票とわずかな差で浦和が県庁所在地の座を守った。

今は浦和と大宮と与野が合併し、さいたま市になったが、なぜひらがなになったかも本書を読んで知った。住民の公募では1位が「埼玉市」、2位が「さいたま市」、3位が「大宮市」だった。漢字の「埼玉市」にならなかったのは、先に書いた行田市の商工会議所が反対の申し入れをしたからだ。「埼玉」の本家は行田だと。これに乗った大宮は「大宮市」をもちろん推した。浦和と与野は「埼玉市」をゆずっても「さいたま市」をゆずらず、「さいたま市」に決着したという。

大宮には駅がなかった!

東北新幹線と上越・北陸新幹線が分岐し、14もの鉄道路線が乗り入れる大ターミナル駅大宮には、高崎線(当時日本鉄道)開通時に駅がなかった、というのも驚きだ。

明治16年(1883年)、日本鉄道により上野―熊谷間が開通。県内には浦和、上尾、鴻巣、熊谷の4駅が置かれた。大宮には駅がなかったのである。次に東北線を延伸する時に、浦和分岐案、大宮分岐案、熊谷分岐案があった。大宮分岐案が採用され、2年後に大宮駅が開設された。そうならなかったら、今の埼玉県の各都市のありようも相当変わっているのではないだろうか。

・埼玉県の気象台はなぜ県庁所在地ではなく熊谷に置かれたのか

・浦和レッズのエンブレムにはなぜ洋風の建物が描かれている?・埼玉県にも「霞ヶ関」がある・海のない埼玉県に砂丘がある!・数度の改名を経て、結局元に戻った「春日部」

などなど、興味深いトリビアルが満載だ。映画を見て埼玉に興味を持った人に読んでもらいたい本だ。

それにしても、小さな県なのに各地域とも東京ばかり向きすぎて、隣とも仲が悪く、少し離れると無関心という県民性は、どうにかならないものか。21も県があったところだから、しょうがないか。まあ、東京と同じ武蔵の国だから、東京依存も当たり前か。

本欄では『翔んで埼玉』漫画原作者、魔夜峰央さんの新刊『翔ばして!埼玉』(宝島社)を紹介したばかりだ。

  • 書名:埼玉「地理・地名・地図」の謎 意外と知らない埼玉県の歴史を読み解く!
  • 監修・編集・著者名: 山本博文 監修
  • 出版社名: 実業之日本社
  • 出版年月日: 2014年5月14日
  • 定価: 本体762円+税
  • 判型・ページ数: 新書判・191ページ
  • ISBN: 9784408455006

BOOKウォッチ編集部